愛知県がんセンターがん予防研究分野と国立がん研究センター等との共同研究により、飲酒により、閉経前の乳がん罹患リスクが上昇することを明らかにした。
これは日本で行われた大規模な8つのコホート研究に参加した合計15万8164人の女性のデータをプール解析することで得られたもの。
これまでの欧米を中心とした研究から、飲酒は乳がんリスクを上昇させることが確実であるとされている。しかし日本人女性は欧米女性と比較すると飲酒習慣も少なく、またアルコールの代謝産物であるアセトアルデヒドの代謝酵素の働きが弱い人が多いなど、飲酒にまつわる背景が欧米とは異なることから、日本人では欧米人とは異なる傾向が認められる可能性が考えられたが、これまで日本人を対象とした大規模な研究は行われていなかった。
約16万人を14年間追跡
そこで、日本を代表する8つのコホート研究から約16万人以上を統合したプール解析を行い、乳がんリスクと飲酒との関連を特に閉経状態に注目して検討し、研究成果を発表した。
飲酒は多くの病気の原因として知られている。乳がんに関しても飲酒が主要な原因の一つであることがこれまで特に西洋で実施されてきた多くの研究で裏付けられている。日本人も含むアジア人での飲酒の乳がん罹患への影響が検討されてきたが、一致した結果が得られていなかった。この背景の一つに、検討対象集団の規模が十分でなかった可能性がある。
乳がんリスクに影響を与える他の要因(年齢、地域、閉経状況、喫煙、BMI、初経年齢、出産数、女性ホルモン薬の使用、余暇の運動)を統計学的に調整したうえで、非飲酒に対するその他の飲酒カテゴリーの乳がん罹患リスクを算出し、プール解析を行った。また乳がんの罹患は、閉経状態に基づき閉経前乳がんと閉経後乳がんに分け、それぞれに対する飲酒の影響を検討した。
約16万人の女性を平均14年追跡し、2208例の乳がんの発生が確認されました。この集団における喫煙率は60.6%、飲酒率は78.5%だった。
調査時の閉経状態に基づいて分類した閉経前乳がんにおいて、飲酒頻度では非飲酒者と比較して最も頻度の高い飲酒者の群で1.37倍、飲酒量では1日摂取量が0gの群と比較して23g以上の群で1.74倍、乳がんの罹患リスクが高くなった。
また、飲酒の頻度、量ともに増加すればするほど罹患リスクが高くなる傾向がみられた。一方で、閉経後乳がんにおいては飲酒頻度、飲酒量ともに乳がんリスクとの有意な関連は認められなかった。
閉経状態でリスクに乖離
研究結果から、日本人においても欧米での報告と同様に閉経前乳がんでは飲酒が乳がんの罹患リスクを上昇させることが明らかとなった。一方で閉経後乳がんでは、日本人では有意な関連が認められなかった。これらの結果は診断時の閉経状態に基づいた分類においても同様の傾向を示した。
今回の研究により、海外の結果と異なり日本人では閉経状態によって飲酒と乳がんリスクの関連に乖離がみられました。
この原因としては、研究に参加した日本人女性のうち、閉経後女性では閉経前女性と比較しても飲酒習慣のある女性の割合が少なく、飲酒の影響が小さく見積もられてしまった可能性や日本人は肥満の割合が少なく、閉経後はエストロゲンの供給が主に脂肪細胞由来となるため、飲酒がエストロゲンを介して乳がん罹患に及ぼす影響が欧米女性よりも弱まる可能性などが考えられた。