順天堂大学大学院医学研究科耳鼻咽喉科学講座の池田勝久主任教授の研究グループは、第一薬品産業㈱(東京都中央区)と共同で、新型コロナウイルス感染症の早期診断に役立つ「簡易嗅覚確認キット」を開発した。4月12日から発売する予定。
新型コロナウイルス感染症では、もののニオイがわからなくなる嗅覚障害が、発熱、咳などの症状が出る前やPCR検査で陽性が判明するよりも前に出現することがわかっている。
一方で、軽度の嗅覚障害は自覚されにくいことから、客観的な嗅覚検査を行い嗅覚障害の早期診断につなげることが、無症状感染者を発見するうえでも重要。今回開発した簡易嗅覚確認キットでは、ニオイの種類を決定するにあたり、嗅覚のみを刺激するニオイ物質を選択し、1キットで複数回、数か月間に渡って利用できるようにした。検温のような日々のスクリーニングによって早期に嗅覚の異常に気づき、PCR検査や自己隔離の目安とすることで、新型コロナウイルス感染症の早期診断や無症状感染者の発見の一助となることが期待される。
80%以上が嗅覚障害
新型コロナウイルス感染症における嗅覚障害は、感染が世界的に流行した当初から主な神経学的症状として報告されてきた。発症率は報告によってさまざまだが、80%以上の症例で嗅覚に対する変化が生じていることが明らかになっている。また、全身症状の程度に関わらず嗅覚障害が生じるため、新型コロナウイルス感染では、嗅覚が普遍的な標的であるといえる。
新型コロナウイルス感染症の嗅覚障害の特徴は、①突然に発症する、②咳、発熱、咽頭痛、倦怠感などの症状と同時またはそれ以前に生じる、③PCR検査陽性の前に生じる、④インフルエンザ感染症、感冒、花粉症などによる嗅覚障害と異なり、鼻閉(鼻づまり)や鼻漏(鼻水)などの他の鼻症状を伴いにくい―ことがわかっている。
また、④主観的自己報告よりも客観的嗅覚検査で検出率が高い、⑤全身症状の重症度に関わらず生じる、⑥無症状感染者の唯一の症状になることなどが知られている。
特に、検温やPCR検査の結果に先行して嗅覚障害が生じることは、早期診断に応用可能な重要な所見。また、嗅覚障害だけの無症状感染者が報告されている一方で、軽度の嗅覚障害は自覚されにくいことから、客観的な嗅覚検査が嗅覚障害の早期診断に有用であり、嗅覚チェックによって無症状感染者の発見が可能と考えられる。