広島大学は15日にオンライン会見を開き、新型コロナウイルスに感染した、あるいはその疑いのある認知症の高齢者への対応について、介護施設向けのマニュアルを発表した。
介護施設に入所する利用者の8割以上は80歳を超えている。その多くは認知症を患っており、認知症はコロナの感染リスクが高い。マニュアル作成を主導した広島大大学院医系科学研究科の石井伸弥教授の調査によれば、高齢者が入居する954の施設中、6%で陽性反応や濃厚接触者が発生したことが分かっている。さらに、認知症患者は感染によるせん妄の発生率も高く、感染後に経過が悪化する傾向もある。実際の発生ケースでは、徘徊で隔離ゾーンから出たり、酸素マスクを外したりする事例などが寄せられている。これにより対応が困難になるほか、職員やそれ以外の入居者の感染リスクが上昇、スタッフが疲弊する事態に陥っているものもあるという。
こうしたことから、感染拡大を食い止めるため、やむを得ず身体拘束に至ってしまう ― 。
今回のマニュアルは、そうした事態を出来るだけ避けることに重きを置いた内容。せん妄や行動・心理症状(BPSD)をできるだけ和らげることで、対応が困難な状態になってしまうリスクを下げるよう呼びかけている。認知症対応の細かい手引きとBPSD対応フローチャート、コロナによる身体拘束説明書、身体拘束実施にあたる手順書の4つで構成されている。
例えば、生活環境の整備や不快感の緩和、丁寧な声かけなどを推奨。脱水にならないよう注意し、排便確認と便通コントロールに取り組むことや、電解質異常・低酸素の補正を怠らないようにすることも勧めた。
高齢者が朦朧としていないかや何度も同じことをきかないか、同じ動作を繰り返したりしていないかなど、異変の早期発見に努めることの重要性も指摘。明らかに不穏な状態の場合は、速やかに医師に相談するよう促している。
身体拘束については、「違法であり原則的に禁止されているが、感染リスクのコントロール、または本人の保護のため他に適切な手段がなく、緊急やむを得ない場合に限って例外的に許容される」と説明。決められたルール・手続きに沿って実施すること、対応方針を親族らにも丁寧に説明すること、高齢者の人権に十分配慮することなどを要請している。
マニュアルはネット( http://inclusivesociety.jp/project.html )で閲覧・ダウンロード可能。広島大は今後、関連団体を通じて介護施設などに周知していくという。サイトでは「印刷配布はご自由に」と呼びかけている。
行動・心理症状
認知症に伴って生じる行動面、心理面の症状。周囲との関わりの中で生じてくると言われており、暴言や暴力、興奮、抑うつ、不安、不眠、幻覚・妄想、徘徊、不潔行動、介護への抵抗などを含みます。
せん妄
何らかの疾患の影響によって生じる一種の意識障害で、高齢者に多く発症します。突然発症し、幻覚・妄想や睡眠障害、注意や意識の障害などの症状を呈します。