(国研)森林研究・整備機構森林総合研究所は、異なる地域のどんくりを植えて生じる悪影響についての研究成果を発表した。
環境保全のために広葉樹を植林する場合には、地域の遺伝的固有性に影響を与えないことが求められる。そのため、地元の種苗を植林に用いることを推奨する「広葉樹の種苗移動に関する遺伝的ガイドライン」が提唱されている。
今回の研究では、ブナ科広葉樹ミズナラでのガイドラインの有効性を検証するため、北海道と岡山県のミズナラ植栽試験地で、地元由来の植栽木と、よそ(他所)の地域に由来する植栽木の遺伝子型との成長を比較し、それらのどんぐりから生じた芽生えの遺伝子型が調べられた。その結果、他所の地域に由来する植栽木の成長は地元のものと比べて低いことが分かった。また、芽生えの遺伝子型から異なる地域に由来する植栽木の間で交雑が生じていることも明らかになり、次世代以降の地域の遺伝的固有性に影響を及ぼすことが考えられた。
こうした結果を踏まえ、広葉樹の種苗の移動については、地域に適応した遺伝的ガイドラインを守ることが大切だとしている。
広葉樹の種苗移動に関する遺伝的ガイドライン
環境保全を目的として植林する広葉樹には、地域環境に適応して成林すること、次世代以降もその環境に適応すること、その地域の遺伝的固有性に影響を与えないことが求められる。そのため、地元の種苗を用いることを推奨する「広葉樹の種苗移動に関する遺伝的ガイドライン」が提唱されている。
どんぐりが実るブナ科広葉樹は、環境保全のための植林によく用いられ、その代表的な樹種としてはミズナラがあげられる。ミズナラは、日本の山地に広く分布し、中部地方を境として日本列島の南北で遺伝的に分化し、それらの地域の間で種苗移動を避けることを推奨する遺伝的ガイドラインが提案されている。
しかし、そのガイドラインの有効性を示すには、実際に異なる地域に植えたミズナラを複数世代にわたり観察することが必要となる。
ガイドラインの有効性を検証 成長の低下、交雑の発生を確認
今回の研究では、ミズナラの種苗移動に関する遺伝的ガイドラインの有効性を検証するため、全国19産地から収集したミズナラを植栽した北海道(北試験地)と岡山県(南試験地)の試験地において、植栽木の遺伝子型と成長を比較し、さらに試験地内のどんぐりから生じた芽生えの遺伝子型を調査した。
その結果、南北いずれの試験地においても、地元と他所の地域に由来する植栽木とは遺伝的に分化していることが分かった。
また、他所の地域に由来する植栽木は、地元由来の植栽木よりも両試験地において成長(生育面積あたり幹断面積)が約40%低下した。さらに、両試験地とも植栽木から落ちたどんぐりの芽生えは、親木である植栽木よりも地元と他所の中間的な由来比率の頻度が高く、その多くが地元と他所の地域に由来する植栽木の間の交雑の結果として生じたものと考えられた。
こうした研究結果から、異なる環境の地域から種苗を移動すると、植栽木の成長の低下を招くだけでなく、異なる地域に由来する植栽木の間で交雑が生じることが分かった。
多くの広葉樹の種でのガイドライン確立を推進
今回の研究は、ミズナラを対象としたものだが、環境保全のために広葉樹を植林する場合において、地元地域の種苗を用いることを推奨する遺伝的ガイドラインの必要性を支持している。
その一方、将来の気候変動などにより地域環境そのものが変化すれば、地域間での交雑によって生じた次世代が新たな環境に適応する可能性も考えらえる。
このため、研究グループは、今後、多くの広葉樹の種で遺伝的ガイドラインを確立するとともに、気候変動の影響も考慮した適用について検討する必要があるとしている。