新型コロナウイルス感染症拡大防止の有力なツールの一つである接触確認アプリ(COCOA、ココア)。東京大学教授らの研究グループは、同アプリをダウンロードすることが、心理的ストレスの予防に効果がある可能性を初めて確認した。コロナ禍のなか、社会的な不安が高まっているなか、ココアをダウンロードすることで、心理的ストレスを改善できる可能性があるという。
精神的不調の防止が課題に
この発見をしたのは、東大大学院医学系研究科精神保健学分野の川上憲人教授、同院生の佐々木那津さんら。新型コロナウイルス感染症は、WHOにより昨年3月に世界的流行(パンデミック)と宣言された。わが国では昨年3月から5月にかけて第1波の流行が、7月から8月にかけて第2波の流行がみられた。新型コロナウイルス感染症拡大下では、地域住民や労働者の心理的ストレスが増加していることが報告されており、感染防止と並んで、心理的ストレスや精神的不調の防止が重要な公衆衛生上の課題となっている。
新型コロナウイルス感染症流行の拡大防止のための手段の一つとして、接触確認アプリが効果的であるとされている。新型感染症の流行にあたり、わが国でも昨年6月に厚生労働省からココアがリリースされ、昨年12月初旬までに約2000万件以上ダウンロードされている。
ココアを利用することは人々に安心感を与え、新型感染症拡大というストレッサーにうまく対処することで、心理的ストレスの軽減につながる可能性がある。しかし、これまでココアをダウンロードすることが抑うつ・不安の軽減に与える効果は明らかになっていなかった。
ココア未活用者、「ストレスあり」4ポイント増
川上教授らは、国内での新型コロナウイルス感染症が拡大するにつれ、企業従業員の心の健康がどのように変化するかを調べるため、「新型コロナウイルス感染症に関わる全国労働者オンライン調査(E‐COCO‐J)を行っている。今回の研究では、ココアリリース前とリリース後の労働者調査の結果をそれぞれ利用した。
ココアリリース後の調査には、リリース前調査回答者の約9割に相当する902人が回答した。このうちココアをダウンロードしたのは184人。ココア活用者は、リリース前は49.5%が心理的ストレスを有していたが、ダウンロード後の昨年8月には44.6%にまで不安を抱えている者の割合が減った。
一方で、ココアを活用していない者は、5月に45.0%だった「心理的ストレスあり」の人の割合が、8月には49.0%にまで増加した。
「逆に緊張高まる」も今後調査
この研究は、ココアをダウンロードすることが、心理的ストレスの軽減に効果がある可能性を初めて指し示したもの。研究グループでは、「より多くの人々がココアをダウンロードすることで、コロナ禍で増加している人々の心理的ストレスを減らすことにつながるかもしれない」と期待を寄せている。
しかしながら、ココアの心理的ストレス改善効果が労働者以外にも一般市民でみられるかどうか確認する必要があると指摘。例えば、ココアのインストールによりいくらか安心して外出できるようになったり、人との交流ができるようになったことで心理的ストレスが改善することの可能性にも言及している。
さらに、「逆に、ココアをダウンロードすることで、緊張が高まるなどの副作用があるかもしれない」とし、こうした点について今後調査を継続して明らかにする方針だ。