2020年11月13日 日よけを使わず気温測定できる温度計を開発 「三球温度計」、コンパクトな新原理のセンサ

農研機構は、大きさの異なる3つの小さな球の温度から、日射などの影響を計算で除去して正確な気温を求める新しい温度計を開発した。この温度計を用いることで、野外でも日よけや通風装置を使わずに信頼性の高い気温データを取得することができ、データに基づいた農作物の管理などに役立つと期待される。

気温は、農作物や家畜を含めた地球上の多くの生物に影響を及ぼす重要な物理量だが、その正確な測定には、日射による温度センサの昇温など放射の影響を軽減するための装置が必要となる。一例として、通風筒は、センサが受ける日射を遮り、風によってセンサと大気の熱交換を活発にすることで、筒内のセンサの温度を限りなく気温に近づけている。

一方で、この放射の影響を物理的に軽減する代わりに、その影響を何らかの方法で見積もって取り除くことができれば、野外において特別な装置のための電源やスペースを気にしない、これまでになかった形での気温計測を実現することができる。

そこで農研機構は、複数の小さな球形のセンサの温度から、放射の影響を計算で除去して正確な気温を求めることのできる新しい温度計を開発した。

 

開発された温度計の特徴

【原理】

開発した温度計の原理は、球体と大気の熱交換、球表面の熱収支の理論に基づいている。これらの理論から、球形のセンサで測定された温度と実際の気温との差が、球の直径の累乗に比例する性質が導かれる。この性質を利用することで、2つ以上の異なる直径の球形のセンサの温度から、回帰直線の切片を求める簡単な計算によって気温を求めることができる。

【構造】

開発にあたっては、野外実験をもとに、様々な直径の球形のセンサについて、どのような組み合わせが適当かが調べられた。その結果、試した20種類の組み合わせの中で、直径が0.25mm、1mm、4mmの3つの組み合わせの場合に測定誤差が最も小さくなることが分かった。

そのため、今回開発された温度計は、これら3つの大きさの球形のセンサを同心円状に等間隔で配置した構造としている。センサには熱電対とステンレス球が用いられており、球部以外からの伝導熱の影響を避けるため、クランク形状の保護管を利用して3つのセンサをグリップで束ねている。そのため、センサ部の折り畳みができて可搬性に優れており、作物の生育期間中のデータ取得などに適している。

【精度】

野外実験から得られた三球温度計の精度は、平均で0.2℃以内(器差を含まない値)となっている。従来の温度計に日よけを付けずに設置すると、昼間に日射の影響を受けて気温を2℃ほど実際より高く評価するが、三球温度計ではそのような誤差がみられなかった。

また、夏季と冬季の実験から、マイナス3℃から34℃までの広い温度範囲にわたって三球温度計による計測値が基準温度計の値とよく一致することが確認されている。

 

産業・科学技術上の効果と期待

開発された温度計は、まずは農業試験場や大学等で試験研究に利用される予定だ。将来的には製品化や改良を通じて作物の栽培管理やハウス、畜舎の管理など農業分野で活用されることが期待される。また、この温度計は通風装置を使用しないため、電源を敷設するのが困難な湿地や山地、または自宅の庭や学校など、様々な場所で気温の測定が容易となり、さらにICTを活用した気温データの利用など、多くの分野で活用されることが期待されている。

さらに、開発した温度計は、小型で通風を行わないため、環境を乱さずに正確な気温を測定することができる。そのため、これまで観測不可能だった弱風時の作物体や建築物、あるいは人体の周辺気温が測定できるようになり、その熱動態の解明を通じた農作物の高温障害や熱中症等の分野の研究が進展することも期待される。


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