2020年8月31日 雲母等にセシウム吸収抑制効果の可能性 非交換態カリウムに高い効果 京都府立大

京都府立大学の中尾淳准教授、矢内純太教授らと農研機構東北農業研究センターの研究グループは、福島県広域の水田から採取された土壌と玄米を分析し、雲母鉱物が土壌に多く含まれていればカリウム不足が補われるため、カリウム追加施肥を行わなくても玄米への放射性セシウムの移行が増加しにくいことを明らかにした。今後、土壌の雲母含量を簡易推定する分析方法を確立し、移行リスクが上昇し始める閾値を決定することで、カリウム施肥量を減らすことに伴い放射性セシウムの移行リスクが上昇する水田と、比較的リスクが上昇しにくい水田を見分ける方法の確立が期待される。

東京電力福島第一原子力発電所の事故以来、福島県や周辺県では、玄米への土壌中の放射性セシウム吸収抑制対策としてカリウム資材(塩化カリ、ケイ酸カリ)の追加的な施肥によって作付け前の土壌の交換態カリウム量を土壌100g中25mgK2O以上にすることが指導されてきた。また、モニタリング検査で不検出となった地域では、カリウムの追加的な施肥を行わないほ場でもモニタリング検査等で不検出となることを確認した上で、追加的なカリウムの施用を卒業している。

その一方、施肥や稲わらの還元など適切な管理を行わなければ、作物への吸収やほ場外への流出により交換態カリウム量が徐々に減少し、将来的に放射性セシウムの米への移行リスクが高まることが懸念されている。しかし、カリウム施肥量を減らすことに伴い放射性セシウムの移行リスクが上昇する水田と、比較的リスク上昇が起こりにくい水田を見分ける方法はなかった。

 

福島県広域の水田で採取した土壌と玄米を分析

研究グループは、2017~2018年の間、福島県内にある、①試験的にカリウム施肥を全く行わなかった水田(無K区)、②慣行のカリウム施肥を行った水田(慣行区)、③慣行のカリウム施肥に加えてカリウム追加施肥を行った水田(増施区)といった、カリウム施肥履歴が異なる水田から収穫された玄米と、それぞれの年の収穫後に採取された水田表層土壌を実験に用いた。

まず、玄米と土壌のセシウム137濃度をGe半導体検出器を用いて測定し、各水田におけるセシウム137の玄米への移行のしやすさを表す移行係数という指標を算出。その結果、無K区の移行係数の平均値が0.015であったのに対し、慣行区、増施区ではそれぞれ0.0012、0.0008となり、カリウム施肥によって玄米の放射性セシウム濃度が非常に低く抑えられていることが示された。

次に、土壌の交換態カリウム量を測定した結果、増施区の全水田、慣行区の大部分の水田では、水稲の栽培後でも交換態カリウム量が比較的高い値に保たれ、かつ移行係数が検出限界近くかそれ以下だった。一方、無K区では、全ての水田で交換態カリウムの値が低くなり、その一部では高い移行係数が確認された。慣行区でも、交換態カリウム含量が低い水田の一部で、比較的高い移行係数が認められた。

この結果から、カリウム施肥量を減らすことで交換態カリウム量を大幅に低下させてしまうと、一部の水田で玄米の放射性セシウム濃度が増加する可能性が明らかになった。しかし、無K区や慣行区の一部では、交換態カリウム量が少ないにもかかわらず、移行係数は2017年、2018年ともに検出限界以下だった。そこで、交換態カリウムが欠乏した状態でも移行係数が上昇しない土壌の特性を調べたところ、非交換態カリウム量が100g中50mgK2O以上であれば、交換態カリウム量が100g中25mgK2Oを下回っても移行係数が非常に低く保たれていることが分かった。

また、非交換態カリウムは土壌中の鉱物に貯蔵されているカリウムであると考えられているため、内標準粉末X線回析法を用いて土壌の鉱物組成を調べた結果、雲母系鉱物が多いほど非交換態カリウム量が多いことや、雲母系鉱物が多い土壌は主に阿武隈高地周辺の花崗岩地帯に分布することなどが確認された。

こうした結果から、これまで交換態カリウムと比べると植物にとって使いにくいと考えられてきた非交換態カリウムが放射性セシウムの吸収抑制に高い効果を示すことが明らかになるとともに、非交換態カリウムの供給源である雲母が土壌に多く含まれる水田では、カリウム追加施肥を行わなくても玄米への放射性セシウムの移行が増加しにくいことが明らかになった。

 

雲母含量を推定する簡易分析方法の確立を進めていく

今後は、雲母含量を推定するための簡易分析方法を確立し、移行リスクが上昇し始める閾値を決定することで、カリウム追加施肥の省力化が可能な水田と施用継続が必要な水田のスクリーニング技術の確立が期待される。この技術が確立されれば、福島原発事故の影響を受けた農家がより安心して水稲栽培を実施できるようになると考えられる。


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