2020年2月21日 森林内の放射性セシウムの動きを将来予測 最新の観測データと改良した予測モデルを活用

(国研)森林研究・整備機構森林総合研究所、(国研)国立環境研究所、東京大学大学院農学生命科学研究科の共同研究グループは、最新の観測データと改良した予測モデルを用いることで、森林内の放射性セシウムの分布の長期変化を予測した。

福島第一原子力発電所の事故で森林に入った放射性セシウムは、森林の中で分布が変化しているが、今回のモデル解析により、森林内の放射性セシウムの大部分が土壌に存在している現在の状況は長期的にも変化しないこと、コナラ木材中の放射性セシウム濃度の増加傾向は引き続き継続して緩やかになることなど、森林の中での放射性セシウムの動きが平衡状態に近づいていることが予測された。

 

今後の森林管理に求められる放射性セシウムの将来の動態予測

東京電力福島第一原子力発電所の事故により放射性物質が降下した地域の約7割が森林に覆われている。

放射性セシウムは、森林内で樹木の枝葉、樹皮、木材、地表部の落葉層、その下の鉱質土壌に分布しているが、落葉による樹木から地表への移動、根からの吸収などにより、森林の中での放射性セシウムの分布状況が変化していくことが知られている。

今後の森林管理のためには、観測研究で得られた情報を組み合わせ、こうした森林の中での放射性セシウムの動きを統合的に理解し、将来の動態を予測することが必要不可欠である。

 

最新の観測データを用いてモデル改良

森林総研では、林野庁の「森林内における放射性物質実態把握調査事業」により、森林の放射性セシウム調査を継続して行ってきた。2013年には2年分の観測データを用いて放射性セシウムの動態をシミュレーションするモデルを開発している。

今回は、最新の観測データを用いてモデルを改良し、スギ一斉林、コナラ・マツ混交林について、①森林内の放射性セシウム分布の長期予測と ②スギ・コナラの木材中の放射性セシウム濃度の長期予測を行った。

その結果、観測から明らかになっている鉱質土壌への放射性セシウムの集積は、今後、長期的にも変化しないと予測された。また、木材中の放射性セシウム濃度は、スギについては変化が小さいことが観測されていたが、今回のコンピュータシミュレーションから、今後も変化が小さいことが予測された。コナラについては木材中の放射性セシウム濃度が増加する傾向が観測されていたが、近年観測された増加が緩やかになる傾向が今後も継続することが予測された。

さらに、森林内の放射性セシウム分布予測モデルを詳しく見ると、事故発生年には森林内で大きく放射性セシウムが動いたものの、急速にその移動量が低下したことと、それに伴い森林の中の放射性セシウムの循環量が減少し平衡状態に近づいていることが示唆された。コナラでは吸収量が落葉などを通じた樹木からの放射性セシウムの排出を上回り、そのことが木材中の濃度上昇につながっていた。スギ一斉林、コナラ・マツ混交林ともに、平衡状態での循環量は事故時に森林に入った放射性セシウム総量の1%以下と推定された。


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