2020年2月19日 「ゾーン30」の有効性を検証 生活道路の速度規制が重傷事故を予防

2011年9月から全国の生活道路で指定が進んでいる「ゾーン30」と、自転車や歩行者の交通外傷発生との関連を分析していた筑波大学の研究グループは、最高速度30キロ以下とするゾーン30の導入後、生活道路における交通外傷が減少しており、2016年12月までの5年間で1704人の自転車と歩行者の死亡・重傷を予防できたとの推定結果を公表した。研究結果は、警察庁と中心とする国レベルの政策の効果を分析した点にとどまらず、自転車や徒歩といった身体活動を伴う交通手段の利用促進という国際的な潮流を後押しすることにもつながることが示唆される。

交通事故による死亡やケガは、世界的な問題。世界で年間130万人が亡くなっているという推計もあり、そのうち4分の1が自転車と歩行者の事故によるもので、自転車や歩行者の安全を確保することは、事故による死傷者を減らすことにとどまらず、歩くなど身体活動を伴う交通手段を促進することで生活習慣病を予防したり、化石燃料の消費を減らしたりするなどのメリットもある。

自転車や歩行者の安全を確保する取り組みの一つとして、区域(ゾーン)内の交通静穏化がある。これは、自動車通行よりも徒歩や自転車が優先されるべき生活道路で、自動車の最高制限速度を概ね30キロ以下にするとともに、必要に応じて道路に凸部(ハンプ)や狭さく部・屈曲部を設けるといった物理的デバイスの設置や交通規制等の対策を組み合わせるもの。この対策には、ゾーン内の交通外傷を減らす効果があることが、これまでの研究で確認されている。

 

1704人の事故を予防

先進国の中で日本は、交通死者のうち自転車・歩行者が占める割合が特に高く、1970年代から2000年代にかけて生活道路における交通静穏化の取り組みが行われてきた。しかし、最高速度制限が30キロよりも速かったり、ゾーン設定の要件が厳しい・予算不足・住民の理解が得られないなどといった理由で広まらなかったりして、十分な成果を挙げられなかった。

 

全国で3100か所以上設定

そのため、2011年9月から、警察庁が中心となり、新たに「ゾーン30」の取り組みが開始された。従来よりもゾーン設定の要件を緩和し、30キロ以下の最高制限速度のみを必須とするとともに、国土交通省、都道府県・市区町村などの道路管理者、都道府県警、地域住民との連携を強化したもので、2017年3月までに全国で3105か所のゾーンが設定されている。

研究グループの分析によると、ゾーン30の対象となる生活道路における人口当たりの自転車と歩行者の交通外傷率が、2016年12月時点で4.6%から26%低下していた。また、2011年9月から2016年12月までの間に、全国で1704人の自転車と歩行者の死亡・重傷が予防されたと推測された。同期間に報告された生活道路における死亡・重傷の人数は2万9434人で、5.5%が予防されたことになる。

研究結果を踏まえ、研究グループでは、自転車や歩行者の交通外傷予防のためには、最高速度30キロ以下のみを要件とする比較的設定しやすいゾーンを、行政や地域が協力して広めることが有効だと指摘。健康や環境の観点から、徒歩や自転車といった身体活動を伴う交通手段の利用を促進するという国際的な潮流を後押しするもので、日本のみならず他国の交通政策にも参考になると見ている。


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