国立障害者リハビリテーションセンターや東京大学などの研究グループは、軽いジョギングで頭部に伝わる適度な衝撃が、脳機能の維持や調節に効果的であることを突き止めた。研究成果は先月31日付で、米科学誌のオンライン版に掲載されている。
研究グルーブは、ラットの頭部に加速度計を装着し、適度な運動になるとされている分速20mで走らせたところ、前足の着地時に頭部へ約1Gの衝撃が加わることを確認した。これはヒトが時速7km程度の軽い所銀を行った際に、頭部へかかる衝撃とほぼ同じだ。軽いジョギング程度の運動を1日30分間で1週間続けたラットは、認知・実行機能や意思の決定などを司る脳の一部で、セロトニンが過多になることにより起こる幻覚反応を抑制することがわかっている。
続いて研究では、運動と同じ状態を再現するため、麻酔を施したラットの頭部を毎秒2回上下に動かし、1Gの衝撃がリズミカルに与えた。これを1日30分間で1週間続けたところ、運動を続けたラットと同様にセロトニンによる幻覚反応が抑えられた。
セロトニンは血管の緊張を調節する物質として発見された。ただし、脳内のセロトニンは生体リズムや神経内分泌、睡眠、体温調節などの生理機能、気分障害や統合失調症、薬物依存などの病態に関わっているほか、感情的な情報のコントロールや精神の安定にも関与しているといわれている。
衝撃を与えたラットの脳をMRIで観察したところ、上下動が加わることで脳内組織液が、秒速約1ミクロンで流動することを確認。これにより、脳内の神経細胞においてセロトニンを受け取る仕組みが変化し、応答性が低下することも突き止めた。
一方、脳内に組織液の流動を阻害するハイドロゲルを注入したケースでは、上下動の衝撃を与えても脳内におけるセロトニンによる幻覚反応の抑制と、神経細胞における変化が起こらないことも確認した。これにより研究グルーブは、頭部への適度な衝撃が脳内の体液を移動させ、神経細胞内の変化が起き、脳機能を維持・調節している可能性があると結論付けた。