国立がん研究センターなどの研究チームは12日、抗がん剤治療の副作用である吐き気や嘔吐を抑える新たな治療法を開発したと発表した。症状を抑えることで、抗がん剤治療を行う患者のQOL向上や治療の継続・完了につなげたい考え。研究成果は、同日付の医学雑誌「The Lancet Oncology」に掲載されている。
吐き気や嘔吐は、抗がん剤で治療する患者の約半数が経験するといわれている。症状が重い場合は、必要な量の薬を投与できず、治療がストップする可能性もある。症状が出るタイミングは大まかに、抗がん剤投与から24時間以内に現れるものと、2日から5日に現れるものの2種類。前者はすでに、ほとんど症状が出ない治療法が確立されている一方、後者は有効な手段がないとされてきた。
■ 抗精神病薬を併せて使用
研究チームは、特定の抗がん剤と抗精神病薬を使用。この組み合わせの有用性は、米国を中心に知られていたが、眠気やふらつきといった抗がん剤以外の副作用が懸案とされてきた。今回の取り組みでは、抗精神病薬の用量を少なくしたり、服用するタイミングを工夫したりすることで、吐き気や嘔吐を抑えつつデメリットを改善することに成功している。
具体的には、吐き気が強い抗がん剤を使う690人を均等に2つのグループに分け、片方には実際に抗精神病薬を投与。もう片方にはプラセボ(偽薬)を使い、両グループの吐き気や嘔吐の改善効果を調査した。加えて、抗精神病薬の副作用である眠気が日中にも残っていないか、逆に副作用の眠気により良く眠れているかどうか、そして食欲低下に差があるかどうかについて調べている。
■ 副作用の眠気も 服薬のタイミングでコントロール
嘔吐せず追加の吐き気止めもいらなかった患者の割合をみると、投与後の2日から5日で抗精神病薬を使ったのとそうでないグループとで13%の差がみられた。抗精神病薬を服用する時間を、従来の就寝前から夕食後に変更したことで副作用の眠気が良い睡眠につながり、翌日の日中には眠気が残りにくくなることもわかった。また、食欲低下に対しても、抗精神病薬の食欲増進効果が影響したことを示唆するデータが取れている。