国立研究開発法人宇宙航空研究開発機構(JAXA)と(株)リコーは、宇宙空間(宇宙船外)で360度の全方位を一度に撮影できる小型全天球カメラを共同開発した。
このカメラは、小型衛星光通信実験装置「SOLISS」の2軸ジンバル部の動作確認のためのモニタカメラとして採用されている。9月11日に打ち上げ予定の宇宙ステーション補給機「こうのとり」8号機で国際宇宙ステーション(ISS)へ送り届けられ、「きぼう」日本実験棟の船外実験プラットフォームから360度の全天球静止画・動画を撮影し、地上に送信する予定。
SOLISSは、JAXAとソニーコンピュータサイエンス研究所がJAXA宇宙探査イノベーションハブの研究提案の枠組みを利用し、将来の衛星間や地上との大容量リアルタイムデータ通信の実現を目指して共同開発した小型衛星光通信実験装置。
このカメラは民生品をベースに開発したもので、宇宙で使われる世界最小の360度カメラ。民生品の360度カメラが宇宙船外で全天球型の撮影を行うのは国内で初めて。
JAXAとリコーは、2018年に相互連携に関する覚書を締結し、共同で同カメラの開発を進めてきた。開発したカメラは、リコーが市販する小型の全天球カメラ「RICOH THETA(シータ)」をベースに、宇宙空間の温度、放射線など、宇宙環境に耐えるための措置を行っている。また、360度全方位の同時撮影が可能なため、カメラのサイズ・重量を抑えながら、多くの視覚情報を得ることができる。シータは外形・寸法44ミリメートル(幅)× 130ミリメートル(高さ)×22.9ミリメートル(17.9ミリメートル、レンズ部を除く)(奥行き)というサイズ。
今後、JAXAはこの技術を宇宙探査機等の船外モニタカメラとして活用することを目指す。リコーは、360度カメラヤ関連するサービスをさまざまな産業分野・用途へ展開していくとともに、技術研究開発を通じて宇宙開発を含む科学・社会の発展に貢献する方針だ。
極地研、ミサワホームと連携し南極での住宅システムを構築
また、JAXAでは、大学共同機関法人情報・システム研究機構国立極地研究所、ミサワホーム(株)、(株)ミサワホーム総合研究所の4者連携で、極限環境下での持続可能な住宅システムの構築を目的とした実証実験を、南極・昭和基地で来年2月から実施する。
ミサワホーム及びミサワ総研は、2017年にJAXAが実施する「宇宙探査イノベーションハブ」の研究提案募集で、「建築を省力化する工法技術」と「住宅エネルギーの自律循環システム」の開発による「持続可能な新たな住宅システムの構築」を提案し、採択された。
JAXAとミサワホーム及びミサワ総研は、地上での未来志向の住宅や、月面等の有人拠点への応用を目指して共同研究を進めてきたが、宇宙空間での有人拠点に求められる「簡易施工性」「自然エネルギーシステム」「センサー技術を活用したモニタリング」等の技術要素は、南極という環境下でも要求されるという共通点について、極限の環境下で検証することにより、技術の信頼性を高められるとの認識で一致。南極・昭和基地をフィールドに選定し、「南極移動基地ユニット」を製作し、昭和基地の運営を担う極地研が実施する「第61次南極地域観測隊の公開利用研究」に『極地での居住ユニットの実証研究』を提案した。
昭和基地の建物には、1957年の開設当時から、南極の過酷な環境に耐えられる堅牢性と、夏期の限られた期間に建築の専門家ではない隊員でも簡易に施工できる簡易施工性が求められてきたことから、極地研ではこのユニットの技術要素が今後の南極での基地建設にも大いに役立つものと意義を強調。この南極移動基地ユニットの実証実験の提案を採択し、極地研、JAXA、ミサワホーム及びミサワ総研の四者と連携して昭和基地での実証実験に取り組むこととなった。