理化学研究所や東京電機大学などの研究チームは8日、ミミズの筋肉を使って化学物質で収縮・弛緩する小型の弁(バルブ)を開発したと同日付の英オンライン科学雑誌「Scientific Reports」で発表した。電気刺激によらないことから、体内へ埋め込む機械を制御するための装置などへの応用が期待されるという。
研究チームは、ミミズの体表を構成する体壁筋に着目。環状構造を持ちながら制御性、応答速度、収縮力に優れる体壁筋を材料とすることで、集積性や機械性の面で既存のポンプに匹敵する小型の「ミミズポンプ」が実現できるのではないかと考えた。そこで、日本で一般的にみられる「フトミミズ」を輪切りにして、縦2cm、横1cmのシートを作成。押すと水の流れが止まるバルブの上にかぶせ、ピンで固定した。シートが収縮するとバルブが押され、弛緩すると元に戻る仕組みだ。
この装置に電気信号で刺激を与えたところ、刺激中はミミズシートの収縮により水が止まること、3回以上繰り返し使用できることを確認。応答時間は約3秒だった。
そのうえで、同じ仕組みの装置に神経伝達物質であるアセチルコリンをかけたところ、筋肉が40秒ほどかけてゆっくり収縮し、1分以上バルブを押さえて水を止めることが出来た。さらに、使用後にシートを洗浄して改めて刺激を与えたところ、3回以上繰り返し使えることも確認した。これによりバルブを化学刺激で動作させると、電気刺激によるような素早い応答は得られないものの、1回の刺激でバルブが完全に閉じ、かつ十分な耐圧性能を持つことがわかった。また、繰り返し利用可能であるという点で、このサイズのバルブとしては圧電素子を用いた既存のものに匹敵する機能を持つことを実証した。
研究チームは、2016年にもミミズの筋肉を使ったポンプを作成。ただ、これは電気的な刺激を与える仕組みであり、当初の「小型化に加え、外部からの電力供給に依存せず、材料自体も全て自然に還元される機械の構築」という理念の実現とは言えなかった。
■ 埋め込みデバイス以外に 薬効試験や水制御にも
今後は、さらに何度まで繰り返し使えるか、またその耐久性や性能の時間変化などを計測。デザインも最適化し、デバイスの性能を強化していくことで、体内への埋め込みデバイスはもちろん、薬効試験などの医学応用や外部からの電源供給を必要としない水流制御装置のモデルとしての工業応用などのさまざまな応用が考えられるとしている。