農研機構は、将来(2031~2050年)、地球温暖化が進んだ場合におけるブドウ着色不良の発生地域を予測し、個々の産地レベルでの発生状況を確認できる詳細なマップを作成して公表した。さらに、このマップでは、真夏の酷暑から着色期をずらすことで着色不良を軽減できる施設栽培や、高温でも着色しやすい新品種などの「適応策」導入により着色不良発生地域が減少することも示されている。
黒色ブドウ品種は、果実の着色が夏季の高温で阻害されると、商品価値が著しく低下してしまう。国内のブドウ産地では、地球温暖化に伴って主力品種の巨峰等に「赤熟れ」と呼ばれる着色不良の発生が増加しており、大きな問題となっている。また、こうした着色不良の発生は、今後、温暖化の進行に伴い更に増加すると考えられる。
今回の研究成果は、こうした状況の中で、生産者による温暖化に対応した栽培計画の立案や、昨年度成立した「気候変動適応法」に基づく「地球気候変動適応計画」をブドウ産地の自治体が検討・策定する際に活用できると期待されている。
温暖化に伴い、黒色ブドウ品種の着色不良の発生が増加
黒色ブドウ品種は、果実の着色が夏季の高温で阻害されると、商品価値が著しく低下する。わが国のブドウ産地では、地球温暖化に伴い、主力品種の「巨峰」や「ピオーネ」などに赤熟れと呼ばれる着色不良の発生が増加しており、大きな問題となっている。こうした着色不良の発生は、今後、温暖化の進行に伴って更に増加すると予測されている。
着色不良を回避する対策(適応策)としては、高温でも着色しやすい新品種などの導入が考えられる。また、施設栽培により開花期を早めれば、着色期が梅雨明け後の盛夏と重なることを避けられるため、適応策として活用できる可能性がある。
また、昨年12月に施行された「気候変動適応法」では、地方自治体に対し、地域の実情に応じた「地球気候変動適応計画」の策定を努力義務として求めている。特に、果樹は一度樹を植えると数十年間は植え替えが難しいため、長期的な生産計画の下で栽培することは極めて重要となる。さらに、具体的な適応計画の策定を進める際には、指標となる着色不良の発生予測や、適応策導入による効果の推定を定量的に行うことが必要となる。
こうした状況を受け、農研機構は、将来における着色不良の発生地域を予測した。通常の場合に加え、適応策を導入した場合の発生地域についてもマップで示している。
将来の着色不良の発生地域を予測 適応策導入した場合の発生地域も図示
今回の研究では、全国のブドウ「巨峰」の果皮色と気温の関係を解析し、その結果を基に近い将来(2031~2050年)の着色不良の発生地域を予測した。また、その値を「巨峰」が栽培されている本州から九州について、マップとして図示した。このマップで1981~2000年と比較すると、着色不良発生地域が大きく拡大することが分かる。また、市町村レベルで着色不良発生頻度を確認することができる高解像度マップを農研機構ウェブサイトで入手することができる。
さらに、2031~2050年における、適応策を導入した場合の着色不良の発生地域を示すマップも併せて開発されている。巨峰を無加温ハウスで施設栽培した場合と、露地栽培において高温でも着色しやすい新品種「グロースクローネ」を導入した場合について示されており、これらの適応策を導入した場合、導入しない場合に比べ、各地域の着色不良発生がどの程度軽減できるか確認することができる。
さらに、より長期的な検討ができるよう、温暖化が一層進むとされる21世紀末(2081~2100年)における、露地栽培の巨峰の着色不良の発生地域を予測した。その結果、2031~2050年では温室効果ガス排出シナリオによる差はほとんどないが、21世紀末になると排出シナリオによる差は極めて大きくなった。長期的にみた場合、着色不良発生頻度の変化傾向は、温室効果ガスの排出状況に大きく左右されるといえる。
醸造用ブドウや、リンゴ、カンキツでの研究の推進にも期待
今回の研究成果は、生産者が温暖化対策を計画する際にはもちろん、ブドウ産地の自治体が「気候変動適応法」に基づく「地球気候変動適応計画」を検討・策定する際に活用することができる。
2031年以降の近い将来、露地栽培の「巨峰」では、着色不良の発生頻度が50%以上となる地域は、地域の実情に合わせて施設栽培や新品種などの導入、ブドウ以外の樹種への転換などの適応策を積極的に検討する必要があり、20%以上となる地域でも導入の検討を開始する必要があると考えられる。
また、今回の研究では生食用のブドウについて取り上げられたが、着色不良の問題は醸造用ブドウでも同様で、特に果皮着色が重要な赤ワイン用品種では温暖化の影響評価を早期に実施する必要がある。また、リンゴやカンキツなど他の果樹でも温暖化の影響は顕著になりつつあることから、農研機構では温暖化の影響評価や適応策の開発を積極的に進めていくとしている。