農研機構はこのほど、国産果実の安定生産に向けて花粉の国内自給率向上を目指すため、生産性向上の障害となっている採花作業を省力化できる花蕾採取機を開発した。開発機は伸縮する把持棒の先端にブラシ状に配置したコードが取り付けられており、小型モーターでこれを高速回転させる。この開発機により果樹の花粉採取作業を大幅に省力化できるが、慣行手作業との作業時間を比較してみると、スモモでは約7割、ナシでは約8割削減することができる。今後、実用規模での試験を行い、開発機の2020年度以降の実用化を目指すとしている。
自家調達と海外輸入の問題点
果樹には雄花と雌花が別々の樹に咲く雌雄異株と、雄花と雌花が同じ樹に咲く雌雄同株の2種類がある。このうち、雌雄異株の果樹園地では果実が収穫できる雌株が植えられ、雄株から花粉を採取して人工的に授粉させる作業が必要となる。また、雌雄同株であっても、同一品種間で交配ができない自家不和合性の樹種では、他品種の花粉を人工的に授粉させる作業が必要となる。
雌雄異株の樹種としては、キウイフルーツなど、雌雄同株の自家不和合性の樹種としてはスモモやナシなどがある。これらの樹種では花粉を自家調達するか海外から輸入したものが利用されている。しかし自家調達では、花粉採取は能率が低く人手が多くかかる花粉採取と授粉を同時期に行う必要がある上にその期間も短いといった問題点がある。一方、輸入花粉では、輸出国の天候や需給バランスにより価格変動がある、病害侵入が懸念されるといった問題点がある。
開発機の特徴、実用化を推進
慣行の花粉採取作業は、採花、葯採取、葯ふるい、開葯、精選の順に行われる。
このうち、花粉採取作業はおおむね機械化が進んでいるが、採花作業は機械化されておらず、人手による人海戦術で行われている。
そこで、農研機構は、国産果実の安定生産に向けて花粉の国内自給率向上を図るため研究を進め、今回、生産性向上の障害となっている採花作業を省力化できる花蕾採取機を開発した。
開発された花蕾採取機は、伸縮する把持棒の先端にブラシ状に配置したコードを取り付け、これを小型モーターで高速回転させる構造となっている。樹冠下にシートを敷設し、回転するコードを花そうに当てて花蕾を落とし、最後にシート上の花蕾を回収する。
〔スモモの場合〕
スモモは花へいが短く開発機で採花すると、花は落ちるが蕾は枝に残りやすかったため、開花中に複数回採花すれば花粉が多く採れると考えられたが、試験を行った結果、開発機(2回採花)では、花芽着生側枝長さあたりの花粉採取量は慣行手作業とほぼ同等であり、作業時間を約7割削減できた。
〔ナシの場合〕
ナシは花へいが長く、開発機で採花すると花も蕾も一斉に落ちるため、花粉を多く採取できる開花状況を調査した。その結果、開花状況の差異による花粉採取量の差は小さく、いずれも慣行手作業と比べて開発機では作業時間を約8割削減できた。
農研機構は今後、実用規模での試験を行い、開発機の2020年度以降の実用化を目指すとしている。また、花粉採取作業以外への適用可能性を調査し、開発機に適した作業、樹種、栽培様式について検討していく方針だ。