観測船による精密な国際共同観測によって得られたデータを用いて、海が吸収した二酸化炭素の比較研究に取り組んでいる気象庁気象研究所や海洋研究開発機構など世界17機関の国際共同研究チームは、人類が産業活動によって排出している二酸化炭素のおよそ31%を海が吸収し、大気中の二酸化炭素濃度の上昇を弱めていることを明らかにした。
国際共同研究チームによると、1994年から2007年までの13年間に、海はおよそ330憶トンもの二酸化炭素を大気中から吸収しており、そのおよそ1/6は北太平洋に蓄積している。
このことは、同じ時期に石油・石炭の燃焼や森林破壊などによって排出された二酸化炭素のおよそ31%を海が吸収し、大気中の二酸化炭素の増加を抑制していたことを示している。
また、海の二酸化炭素吸収が、海の内部でも海水の酸性化を引き起こしていることや、北大西洋や南極海などでは、気候変化による海水循環の変化によって、二酸化炭素の吸収量が大きく変化していることも分かった。
化石燃料の燃焼や森林の破壊によって、大量の二酸化炭素(CO2)が人為的に大気中へと排出されている。しかし、そのすべてが大気中に残り、地球温暖化を引き起こしているわけではない。排出されたCO2の多くは、海や陸の植生に吸収されている。
人為起源のCO2の海への吸収は、2段階で進む。まずはじめにCO2が大気から海面付近の海水に溶け込む。次に海水の上下混合や大循環がそれを海中へと運んでゆく。海の奥深くに運ばれたCO2は、長い年月にわたってそこに蓄えられる。
研究の結果、予想される吸収量とはかなり異なっていた海域があったことも分かった。たとえば北大西洋では、1990年後半に北大西洋の子午面循環が減速したため、予想より20%も少ないCO2しか吸収されていなかった。南大西洋での吸収量の増加によって相殺されていたので、大西洋全体の吸収量はほぼ予想通りだった。
北大西洋では暖流のメキシコ湾流によって北部に運ばれた海水が、アイスランド沖で強く冷やされて重くなり、海の深層へと沈んでいく。深層に沈んだ海水は、ゆっくりと南下し南太平洋や太平洋などでゆっくりと上昇。こうした海水の南北と上下の大きな循環を子午面循環と呼んでいる。日本近海でも、亜熱帯域から暖かい海水を運んできた黒潮が冷やされて、房総半島の沖合や三陸沖で冷やされて沈殿し、「モード水」と呼ばれる水塊になって、北太平洋の広域に広がっていく。
増加するCO2は海の生物の生息環境を酸性化する
CO2を吸収する海には、地球温暖化の進行を和らげる重要な役割があるが、それには海水に溶けたCO2が海水を酸性化させるという大きな代償を伴う。研究によると、海洋酸性化は海の奥深くに及んでおり、海域によっては水深3000mにまで達しているという。
海洋酸性化は、多くの海洋生物に深刻な影響を与えるおそれがある。酸性化が進むと炭酸カルシウムが溶けてしまうために、貝類や、骨格が炭酸カルシウムでできているサンゴなど、海の多くの生物が危険にさらされる。海の化学組成の変化は、魚の呼吸などの生理的なプロセスにも影響を及ぼす。人間活動によって海で起きている化学変化を記録することは、きわめて重要。変化が海の生物や生態系に及ぼす影響も理解しなければならない。