2019年3月13日 ニホンミツバチのフルゲノムを解読 病気に強い理由の解明への活用に期待

農研機構、東京農業大学、京都産業大学は共同で、ニホンミツバチのフルゲノム配列の解読に成功した。

ミツバチは、蜂蜜などの蜂産品の生産や、作物の受粉に活用できる農業上とても重要な昆虫。特に、セイヨウミツバチは家畜として長年にわたり改良が進められ、高い貯蜜能力などの優れた性質を持っている。しかし、近年では病気や寄生虫(ダニ)、農薬などによる蜂群の弱体化が問題となっている。

また、ニホンミツバチはセイヨウミツバチの近縁種で、日本在来の野生種。病気や寄生虫に強いなど、セイヨウミツバチにはない有用な特性を持つことが知られている。

今回の研究では、ニホンミツバチのゲノム塩基配列が高い精度で解読された。解読されたニホンミツバチのゲノムを、既に解読されているセイヨウミツバチのゲノムと比較することで、両種の病気に対する強さなどを遺伝子レベルで解析できるようになった。

 

セイヨウミツバチとニホンミツバチ

セイヨウミツバチは欧州原産のミツバチで、日本を含め世界中で蜂蜜などの蜂産品の生産に利用されている。また、世界で生産されている約7割の作物の花粉を運ぶことができる。その価値はアメリカだけでも20億ドルと試算されており、日本でも施設栽培のイチゴなどの受粉に8万群以上が活躍している。家畜として長年にわたって改良が進められ、高い貯蜜能力などの優れた性質を持っている。しかし、近年では病気や寄生虫の蔓延、農薬への曝露等に伴う蜂群の弱体化が問題となっている。

セイヨウミツバチの近縁種として、トウヨウミツバチが知られている。ニホンミツバチは、トウヨウミツバチの亜種で、青森から鹿児島(奄美群島)まで野生種として分布している。日本では、明治以前はニホンミツバチによる養蜂が行われており、現在でも一部の地域で飼養されている。

ニホンミツバチを含むトウヨウミツバチは、セイヨウミツバチで問題となる、アメリカ腐蛆病やヘギイタダニに強いという有用な性質を持っている。また、養蜂の天敵であるオオスズメバチを集団で取り囲んで熱死させる方法も備えている。

以前からニホンミツバチの特徴を利用してセイヨウミツバチを改良するというアイデアはあったが、両種間に雑種はできず、交配育種ではニホンミツバチの有用形質をセイヨウミツバチに導入できない。そのため、ニホンミツバチをセイヨウミツバチの改良に利用する研究は進展していなかった。

 

2016年にニホンミツバチのゲノム解析を開始

セイヨウミツバチのゲノムは、2006年に世界中の研究者が集まったコンソーシアムによって解読されている。その後、2015年に韓国、2018年に中国でトウヨウミツバチ(ニホンミツバチとは別の亜種)のゲノムが解読された。

農研機構らの研究グループは、これらのミツバチのゲノムと比較することで、ニホンミツバチの特徴の遺伝的背景を明らかにし、それをセイヨウミツバチの改良に役立てるという考えのもと、2016年にニホンミツバチのゲノム解析を開始した。

 

次世代シークエンス技術で塩基配列解読

今回の研究では、ニホンミツバチの雄蜂からゲノムDNAを取り出し、次世代シークエンス技術を用いて塩基配列を解読した。

得られたゲノム配列は全長211Mbp(約2億1000万)塩基対で、ニホンミツバチゲノムの全てをカバーしていた。また、3つの異なるDNAシークエンス方法で得られたデータを組み合わせることで非常に精度の高い配列情報が得られた。こうした手法でゲノム配列を高精度に決定した研究事例はほとんどない。

さらに、精度の高い配列情報が得られたので、ゲノム情報から推測されたニホンミツバチの遺伝子数は1万3222個と、セイヨウミツバチの1万157個、他のトウヨウミツバチ亜種の1万182~1万651個より多くの遺伝子が見つかった。

ゲノム解析の結果では、一般的にみられる免疫に関わる遺伝子が全て見つかり、ニホンミツバチは他の昆虫と同様の免疫機構を持つことが示唆された。韓国のトウヨウミツバチのゲノム解析では、セイヨウミツバチでは同定されているいくつかの免疫関連遺伝子が見つかっていなかった。

このほか、ゲノム中に存在するトランスポゾンは、これまで報告されたミツバチと同様に他の昆虫種よりも少なく5.3%程度であることが分かった。

 

今回の成果を踏まえて研究を推進

今回得たニホンミツバチのゲノム情報を既に解読されているセイヨウミツバチのゲノム情報と合わせて解析することで、遺伝子レベルで両者を比較することが可能となった。農研機構では、まず、ミツバチの免疫に関わる遺伝子群について両種の比較解析を進める予定だ。

また、他のハチ目昆虫の中で、ミツバチ類が辿ってきた進化の過程を理解する糸口となり得る成果であり、基礎的な研究に対しても大きな貢献を果たすものと期待されている。さらに、農研機構では、このゲノム情報を基盤に、他のトウヨウミツバチ亜種や近縁ミツバシ種のゲノム解析や再解析を進めていくとしている。


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