小笠原諸島の西之島に噴出した溶岩の採取・分析を行った結果、西之島直下のマントルが溶解して安山岩質マグマを噴出していることが明らかになった。安山岩質マグマは、太陽系で地球にのみ噴出する特異なマグマで、大陸地殻を形成する原料として地球表層の形成に深く関わっている。国立研究開発法人海洋研究開発機構などが研究成果を発表したもので、地球における大陸の成因を明らかにするとともに、人間活動の基盤となる陸地を形成するプロセスの解明に向けて重要な役割を果たすことが期待される。
西之島は、水深3000メートルから屹立する巨大な海底火山の山頂部で、火山体の大部分は海面下にある。2013年11月に40年ぶりに噴火し、われわれが住む大地がどのように誕生したかを知る手掛かりを得られるのではないか、そのプロセスが「大陸の誕生」を再現している可能性があると注目を集めた。
2016年、海洋研究開発機構(JAMSTEC)海洋掘削科学研究開発センターが産業技術総合研究所、ニュージーランドカンタベリー大学の共同研究グループでは、西之島を含む伊豆小笠原弧や北米のアリューシャン弧のこれまでの研究から、地殻の薄い海洋島弧に特徴的に安山岩マグマが噴出していることを明らかにし、「海において大陸が形成される」という新しい仮説を提唱していた。
研究グループは、噴出した溶岩の成分からマントルやマグマの成因を調べることを目的として、JAMSTECの海洋調査船「なつしま」、深海潜水調査船支援母船「よこすか」、民間調査船「第3開洋丸」と無人ヘリコプターを用いて西之島の調査を行い、溶岩を採取して分析を行った。今回初めて、西之島および周辺海域から直接採取した岩石サンプルを各種の手法で総合的に分析したもので、海底下のマントルにおいて直接、安山岩マグマを生成している証拠を見出した。この仮説を実証により、地球においてどのように大陸ができていったのか、という地球科学における大きな謎の解明に近づいたと言える。
安山岩質マグマをマントルで生成するためには、マントルが浅い場所にある、すなわち地殻が薄いことが必要なのだという。伊豆大島や三宅島のように地殻が30kmを超えてしまうと、マントルにおいて安山岩は生成されない。西之島のような地殻の薄い海洋島弧でのみ、大陸の材料である安山岩がマントルで生成されることは、これまでの常識を変えていく大陸生成の仕組みだと考えられる。
研究グループでは、今後、仮設が他の地殻の薄い海底火山でも成立しているのか、地殻の薄い海洋島弧で同じようにマントルにおいて安山岩質マグマが生成してるのかを検証していく。伊豆小笠原弧と同様な地殻構造を持つニュージーランドのトンガ・ケルマディック弧での調査や分析も進行中で、新しい大陸生成説の進展が期待される。
研究グループは、火山活動は災害をもたらすものという印象を持たれがちだが、温泉から陸地の形成まで社会や生活基盤に深く根付き、人間生活を豊かにする側面も持っていると指摘。その根源的な理解がよりよい自然との共生・共存へと繋がることから、今後も引き続き海底火山の調査・研究を続けることが重要と考えている。