2020年の東京オリンピックの分煙化議論を皮切りに、喫煙室向け空気清浄機の一酸化炭素(CO)の無害化が緊急の課題となっているが、国立研究開発法人物質・材料研究機構は、首都大学東京、(株)NBCメッシュテックと共同で、有害な一酸化炭素を室温下で無害化する新触媒を開発した。
酸化鉄のナノ多孔体に金ナノ粒子を保持させるハイブリッド型にすることで、市販の触媒に比べ5倍以上の除去率を実現した。喫煙室向け空気清浄機フィルターなどさまざまな場面での活用が期待されるという。
空気清浄機は、タバコやペットの臭い対策や、車や工場から排出される有害物質除去まで、すでに幅広く活用されている。しかし、従来の空気清浄機では、タバコや排ガスに含まれる有毒な一酸化炭素を効率良く除去することができない。原因は、一酸化炭素を室温で酸化除去する有効な触媒がないため。
1984年に、ナノ粒子化(直径10ナノミリ以下)された金が、室温の状態で一酸化炭素を酸化することが首都大学東京の春田名誉教授・客員教授らによって報告されているが、金ナノ粒子は非常に凝集しやすく、単独では本来の触媒活性を発揮できないという大きな課題があった。
2020東京オリンピックの分煙化議論で喫緊の課題に
一酸化炭素のガス成分は、通常の空気清浄機のフィルターで取り除くことが困難で、室温で無害化する触媒の開発は、喫煙室用を中心とする空気清浄機の開発において極めて重要な課題となっている。また、2年後に迫った東京オリンピック・パラリンピックに向けた分煙化議論を契機として、喫煙室向けに一酸化炭素を無害化する触媒の開発が喫緊の課題となっている。
物材機構などの研究チームが開発したハイブリッド型の新触媒は、酸化鉄ナノ多孔体に金ナノ粒子触媒を固定したもの。1グラムあたりおよそ200平方メートルもの非常に高い比表面積をもつナノ多孔体に、金ナノ粒子を均一に分散させて凝集を抑制することで、室温で高い一酸化炭素の除去能力を実現した。
多孔質材料は、高い表面積と大きな細孔容積などの特徴があり、これまで環境・エネルギー分野での応用が活発に研究されてきた。
ゼオライト、メソ多孔体、金属有機構造体などナノ多孔質材料の合成は数多く報告されてきたが、酸化鉄の骨格を有する多孔体の例は少なく、これまでの報告では、酸化鉄の結晶化により細孔が崩壊し、良好な細孔を得られるまでには至っていない。
鉄は、世界で4番目に多い元素で、安価で人体や環境への安全性が高い材料として知られており、特に酸化鉄は日々よく目にする赤さびで知られるヘマサイトなどをはじめとしたさまざまな結晶構造を取り、化学的・熱的安定性を持ち、特徴的な物性を示す。
今回の研究で開発された技術を使用することによって経済面と環境面のともに優れた空気清浄機のフィルター開発につながることが期待できる。共同研究チームでは今後、酸化鉄だけでなく、さまざまな金属酸化物ナノ多孔体を使用することも考慮に入れ、生産規模の拡大や応用製品の開発を目指す。