国立研究開発法人情報通信研究機構(NICT)セキュリティ基盤研究室と筑波大学は、医療データを暗号化したまま解析することに成功し、開発した暗号方法の性能を実証した。4500名程度の暗号化された医療データに対し、1分弱で病院の罹患情報と個人の遺伝情報との統計的な関連性を、一人ひとりの病気の有無や遺伝情報を知ることなく、安全性を確保したまま解析できる。この実証実験は三重大学の山田芳司教授の協力を得て行われた。
また、この暗号方式では、解析中にデータの中身を見ることが許されない医療データに対して、解析対象外のデータが混在した場合でも高速に検出することができ、解析結果が正当であることを暗号理論的に証明できる。これにより、個人のプライバシーを保護して情報漏えいを防ぎながら、医療ビッグデータを安全に利活用できるようになり、新たな診断方法や治療法の開発につながることが期待される。
ここ数年、健康・医療に関する先端的研究開発や新産業創出を促進し、健康長寿社会の形成につなげることを目的とした医療ビッグデータ法が整備されるなど、プライバシーを保護したまま医療データを安全に活用し、新たな治療法の開発等に役立てようという動きが盛んになっている。
暗号は、医療データの情報漏えいなどに関する安全策として有効。暗号化したままデータに関する演算が可能な暗号方式である準同型暗号(暗号化されたデータに対して足算と乗算を行うことができる技術)を用いたプライバシー保護データ解析の研究が進められている。
暗号文からは、データに関する情報は漏れないため、データを明かすことなく第三者に解析処理を依頼することや、データそのものを組織間で受け渡すことが難しい医療分野や金融分野での安全な統計処理など、さまざまな応用が考えられる。
一方で、医療データを暗号化すると、暗号化されているゆえに、解析対象のデータが同課を判定することができない。このため、対象外のデータが統計処理に使用された場合でも検出できずに解析がそのまま行われ、誤った統計値が出力される懸念があった。解析前に一度暗号文を復号し、解析対象データであることを確認する場合、データ解析を行う第三者にデータの内容を開示する必要があり、プライバシー上の懸念事項となっていた。
NICTが中心となり、開発した誤データ混入防止機能を持つ準同型暗号方式を用いて、今回、実際の医療データに対する解析を実施。誤データ混入防止機能により、解析時に中身を見ることが許されない医療データに対し、データの中身を見ることなく解析対象の医療データであるかどうかを判定できる。
実証実験は、医療の発展目的への使用に関する患者の同意を得て三重大病院が収集した匿名化された医療データを用い、三重大学内の外部ネットワークからはアクセスできない環境で行った。
NICTが暗号化データ解析手法の研究開発と暗号化データ解析ツールの開発を担当し、筑波大は暗号化データ解析手法の研究開発を検討。三重大は臨床情報と遺伝情報をデータベース化し、提供した。
この技術により、医療分野で多くの被験者から収集したデータを、プライバシーを保護したまま解析することが可能にある。さらに解析結果に対象外のデータが混入しないことを暗号論理的に証明することで、解析結果の妥当性を向上させることが可能になる。新たな診断方法や治療法の早期かつ効率的な発見につながることが期待される。