日産自動車株式会社と国立研究開発法人産業技術総合研究所自動車ヒューマンファクター研究センターは、共同研究として実施した「ペダル操作の違いが運転者の心理状態と脳活動に及ぼす影響」に関する実験結果を発表した。実験では、アクセルペダルの操作だけで加速や減速を行い、ブレーキペダルへの踏みかえ回数を減らした新しいペダル操作(ワンペダル操作)での運転時の心理状態と脳活動を、アクセルペダルとブレーキペダルの操作で加速や減速を行う従来のペダル操作(ツーペダル操作)での運転時の心理状態および脳活動と比較した。
心理状態については、運転後の質問紙調査から、ワンペダル操作での運転時に、「運転がより楽しく感じられる」ことが示された。脳活動については、運転中に計測した脳波から、ワンペダル操作での運転が、楽しさの重要な要因の一つである運転への集中状態を自然に引き出しうることが明らかになった。
この共同研究は今年1月5日から3月14日に、茨城県内の細くうねった道路、混雑・渋滞のある市街地・駅前道路、跨線橋、カーブが連続する自動車専用高架道などを含む一周約11.3kmの一般道路で行われた。
男女各6名の12名が参加し、平均年齢43.4歳、最低年齢22歳、最高年齢55歳で、使用車種:日産「ノートe‐POWER」。
各実験参加者が、アクセルペダルを戻した際の減速度がガソリン車と同等のモードである「ノーマルモード」と、ノーマルモードに比べてアクセルペダルを戻した際の減速度が強いモード「Sモード」の二つのドライブモードで、交互に12回ずつコースを運転した。
運転中に脳活動(脳波)を計測し、運転後に心理状態(質問紙)を計測。主に運転の「楽しさ」の観点から、ペダル操作の違いが運転者の心理状態と脳活動に及ぼす影響を解析した。
質問紙調査の結果、ツーペダル操作に比べ、ワンペダル操作での運転時に、「運転が楽しかった」の項目に対する評定値が統計的に有意に高かった。脳波計測の結果、ツーペダル操作に比べ、ワンペダル操作での運転時に、注意状態を客観的に評価する方法の一つである課題非関連プローブ法における聴覚成分が統計的に有意に減衰した。
これまでの研究から、この課題非関連プローブ法における聴覚成分の減衰が、楽しさの重要な要因である運転への自然な集中(運転に配分される注意資源量の増加)を反映することが示されている。
これらの質問紙調査および脳波計測で観察された効果は、実験の前半から後半まで一貫して生じていたことから、ワンペダル操作が実験参加者にとって新規なものであったため、あるいはワンペダル操作に対する慣れが不足していたために生じた効果とは考えにくい。これらの結果から、ワンペダル操作での運転が、運転者にとってより楽しいこと、ならびに楽しさの重要な要因である運転への集中状態を自然に引き出すことが示された。
自動運転車の影響なども探究
産総研は、脳波を用いて人間の認知状態を推定する技術に強みを持ち、運転者をはじめとするさまざまな作業者の認知状態を客観的に推定・評価する技術の開発を行ってきた。これらの技術が、作業の楽しさや難しさに関連して生じる注意状態(作業に配分される注意資源量)の変動の評価に有用であることを報告している。
日産自動車は、電動駆動車などの普及により導入される新しい運転操作系が運転者の認知状態に与える影響を調べることが、人間に適合した設計を推進するうえで重要と考え、今回、産業技術総合研究所の技術を活用し、ワンペダル操作が運転者の注意状態に及ぼす影響を調べる共同研究に取り組んだ。
今回の研究結果により、「楽しい」と感じる操作が運転への集中を促すことがわかったように、脳波を用いた運転者の注意状態推定技術は、運転操作系の新しい設計支援技術となると考えられる。産総研などでは、技術革新による電動駆動車や自動運転車などの普及により、従来とは異なる新しい運転操作系も広がりをみせている。今後、それらが運転者に及ぼす影響について、この推定技術を用いて引き続き探究し、豊かで創造的な自動車社会の実現に貢献する方針だ。