脳活動から初実証
大事なイベントのスケジュール管理は、スマホよりも紙の手帳―。東京大学教授らの研究グループは、使用するメディアによって記憶力や脳活動に差があることを明らかにした。スケジュール等を書き留める際に、スマートフォンなどの電子機器と比較して、紙の手帳を使った方が、記憶の定着に対する脳活動が定量的に高くなることを発見。異なる方法で記憶のプロセスに影響が生じることを、脳活動から初めて実証した。教育やビジネスで電子機器が多用されるなか、記憶力や創造性につながる紙媒体の重要性を解明した。
この研究成果を公表したのは、東大大学院総合文化研究科広域科学専攻の酒井邦嘉教授とNTTデータ経営研究所の茨木拓也氏ら。
研究参加者に具体的な予定を紙の手帳か電子機器にメモをさせ、MRI装置と想起課題を用いて予定の定着のプロセスを調べた。その結果、記憶処理と言語処理に関係する脳領野の活動が、紙の手帳を用いたケースで定量的に高くなった。この結果について酒井教授らは「電子機器にはない紙の特性が、五感を通して空間的な手掛かりを与えることで、より深い記憶の定着を可能にするという仮説を支持する」としている。
紙と電子、目的に応じて使い分けを
紙の教科書やノートを使って学習する際には、そこに書かれた言葉の情報だけでなく、紙上の場所や書き込みとの位置関係といった視覚情報などを、同時に関連付けて記録する連合学習が生じている。一方、スマホ・タブレット・パソコンといった電子機器では、画面と文字情報の位置関係が一定ではなく、各ページの手掛かりに乏しいため、空間的な情報を関連付けて記憶することが困難となる。
このように、紙媒体は記憶を定着する際の手掛かりが豊富であるため、記憶の定着に有利であることに加え、高い記憶力をもとにした新しい思考や創造力に対しても、役立つといえる。
研究グループでは、今回の研究成果を踏まえ、「日常生活で紙の製品と電子機器の目的に応じて使い分けることで、より効果的な利用につながる」と指摘。特に、教育やビジネスなどで、経費削減や効率化を重視して使用メディアのデジタル化が進んでいるが、脳科学の根拠に基づいて創造性等を発揮させるため、あえて紙のノートや手帳などを用いることで、本来求める成果を最大化できるとしている。