2023年1月13日 【NII】眼底画像から生体年齢を推定するAIを一般公開~眼の病気に関係する新たなバイオマーカー開発の基盤に~

公益財団法人日本眼科学会と情報・システム研究機構国立情報学研究所(NII)は、日本医療研究開発機構(AMED)の支援により構築された学会主導データベース「Japan Ocular Imaging Registry:JOIR」で収集された画像データを用いて、眼底画像から個人の年齢を推定するAIを開発し、無償公開を開始した。この成果を研究者が活用して疾患対照研究や疫学研究などを行うことで、眼の病気のなりやすさに関係する新たなバイオマーカーの開発につながると期待している。

NII、医療補助AIの研究開発実施へクラウド基盤を整備運用

深層学習(DL)は機械学習におけるブレークスルーで、特に画像認識の分野では人工知能(AI)の代名詞となるほど盛んに利用されている。さらに、画像認識の精度は人間を上回るとの報告も増加している。

NIIは2017年に医療ビッグデータ研究センターを設置し、医療画像ビッグデータのデータベースを構築して医療補助AIの研究開発を実施する統合クラウド環境(クラウド基盤)を整備運用している。

一方、日本眼科学会は、眼底画像を含む眼科データを全国の眼科関連施設から収集し、医療補助AIの研究開発を支援・促進する目的で、一般社団法人Japan Ocular Imaging Registry(JOIR)を2019年に設立。このJOIRのデータベースに収集した眼科画像を匿名化してNIIのクラウド基盤へ送り、クラウド基盤上の計算資源を利用して医療支援AIを研究開発している。

加齢は、がんや生活習慣病、認知症などさまざまな疾患の発症に影響することが知られている。ここ数年、医療画像を用いたAI開発が急速に進み、病気の有無を判定するだけではなく、画像が撮影された個人の状態を推定することができることが明らかになってきた。

眼内の光を感じる部分である網膜を撮影した眼底写真からは、年齢や性別、喫煙状況、血糖の状態などをAIで推定可能なことが明らかになっており、そこから得られる情報は眼科領域の疾患だけでなく、さまざまな全身の疾患を対象とした医学研究に活用できる可能性がある。

しかし、これまでに報告された研究では、開発されたAIが公開されていないことから、他の研究に用いることができなかった。

そこで、日本眼科学会は、NIIと共同で、眼底画像をもとにその人の年齢を推定するAIを開発し、このAIモデル(推定手法)を広く研究者が自由に利用できるよう、一般に無償公開することにした。

眼底写真8149枚を学習データとして深層学習を実施

今回研究開発したモデルは、年齢と性別のラベルが付与された18〜84歳の健常者の眼底写真8149枚を学習データとし、年齢を正解として深層学習を行った。その結果、検証データの眼底画像から推定した年齢と正解ラベルの生体年齢との誤差の平均は2.39歳だった。ここで作成した「眼底年齢推定モデル」が実年齢とある程度の相関があると評価されたため、そのモデルを医学や情報学の研究者が広く利用できるように無償提供することとした。

眼底画像から得られる情報を用いて、心血管病や認知症などのリスクを推定できることが、AIを用いない従来の古典的な疫学研究で明らかになっている。眼底画像から推定された年齢にどのような医学的価値があるかは現時点では不明だが、この成果を研究者が活用し疾患対照研究や疫学研究などを行うことで、病気のなりやすさに関係する新たなバイオマーカーになる可能性があると考えられる。


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