国立研究開発法人情報通信研究機構(NICT)は、世界に先駆けて、体形及び解剖学的構造が国際的な標準値に合致した国際標準小児数値人体モデル(1歳児、5歳児、10歳児)を開発し、2月1日から非営利目的の利用に対して無償公開している。このモデルは、小児を対象とした電波吸収量や車両衝突時の人体損傷の解析などの様々な数値シミュレーションに利用することが可能で、小児の安全性評価や診断・治療技術の向上など、様々な分野への貢献が期待される。
ここ数年、医療診断技術の進歩や計算機性能の向上により、人体を忠実に模擬した高精細数値人体モデルを用いた電磁界シミュレーションで、人体の電波吸収量を精密に推定することが可能になってきた。NICTは、日本人の平均的な体形及び解剖学的構造を有した成人男女や妊娠女性の数値人体モデルを開発。これらのモデルを公開することで、これまでに、国内外約300件の研究などで利用されている。
一方、これまでの小児の数値人体モデルでは、その多くが成人の数値人体モデルの簡易縮小版や特定の個人の解剖学的データを用いていたために、体形や臓器が小児の標準値から逸脱しているといった問題があった。
そこで、NICTでは、個人差に影響されない一般性の高い数値シミュレーションを可能にするために、国際的な標準体形及び解剖学的構造を有する国際標準小児数値人体モデルの開発に取り組んできた。
今回公開する国際標準小児数値人体モデルは、人体の解剖学的な構造を多数の細かなブロック(1辺が2㎜の立方体)で表現した小児(1歳児、5歳児、10歳児)のモデル。このモデルを構成する各ブロックには約50の異なる組織臓器に対応するID番号が付与されており、体形と組織重量は、国際放射線防護委員会(ICRP)が推奨する小児の体形と臓器重量の参照値に合致するように調整している。
この人体モデルを構成する各ブロックに対応した組織や臓器の電気定数を設定することで、電波が小児に吸収される様子を計算することができる。NICTは、これらの国際標準小児数値人体モデルを用いて、携帯電話基地局等からの電波吸収量に関する詳細な数値シミュレーションを実施。成果をまとめた論文は2020年に発行された国際非電離放射線防護委員会(ICNIRP)の国際ガイドラインの根拠として引用されている。
また、電気定数の代わりに他の物性値を設定することで、さまざまな分野での数値シミュレーション研究・技術開発にこれらのモデルを利用することが可能となる。これまでに公開してきた成人の数値人体モデルは、車両衝突時の人体損傷の解析や放射線治療における被ばく線量最適化等の分野でも活用されており、国際標準小児数値人体モデルについてもさまざまな分野で活用できる。