順天堂大学大学院医学研究科難病の診断と治療研究センターの奈良岡佑南研究員、赤澤智宏教授らの研究グループは、家畜(牛)から分離したCD29(Ha2/5)陽性細胞を筋と脂肪に分化誘導させることで、食肉のもととなる3Dの構造物(Meat Bud)を作成することに成功した。この研究では、牛骨格筋由来の細胞を入手可能な246種類の抗体を用いて選別し、CD29(Ha2/5)陽性細胞が増殖能と自己凝集能が高いことを明らかにした。
この牛骨格筋由来CD29陽性細胞は、①スフェロイドを構築、②分化誘導させることで筋肉成分と成熟脂肪顆粒を含んだ直径500μmほどの肉芽(Meat Bud)を形成、③多数のMeat Budをコラーゲンゲルに埋め込み培養することで、直径1.5cmほどの構造物を形成することに成功した。
この研究成果は、新たな機能を持つ食品への応用や、人口増加に伴う食糧難に対する培養肉の実用化技術の開発に繋がることが期待される。この研究論文はCells誌のオンライン版に公開された。
ここ数年、急激に進む労働人口の減少や地球規模で進む気候変動を背景に、容易に食用肉が入手できる時代に陰りがみえており、動物性タンパク質を取得する手段として培養肉が注目を浴びている。
ヒト由来の組織前駆細胞の培養法は、現在治療法が確立されていない病気や怪我を治療するために研究されていますが、組織に存在する前駆細胞は家畜の組織にも存在するため、培養肉という新しい技術に応用することが可能。研究グループは以前から組織幹細胞の分離と性状解析に取り組んでおり、先行研究ではマウスとヒトの組織に存在する増殖性組織幹細胞を分離する技術を開発した。
そこで今回、幹細胞を用いた培養肉の技術開発を目的に、牛骨格筋由来CD29(Ha2/5)陽性細胞の特性評価と分化誘導について検討した。