順天堂大学准教授らは、熱中症入院患者AI(人工知能)による高精度な予後予測モデルを開発した。日本救急医学会による「熱中症患者の医学情報等に関する疫学調査」のデータベースに、AIの機械学習手法を用いることにより、入院した熱中症患者の生命予後を高精度で予測するモデルの開発に成功した。さらに、熱中症の予後予測に関わる重要因子について比較検討を行った結果、来院時の体温だけでなく、意識障害や肝障害マーカーの上昇が予後予測に寄与していることを見出した。熱中症の治療選択サポートや治療の質の評価など、今後の熱中症診療の発展に利用されることが期待される。
このモデルを開発したのは、順天堂大学医学部附属浦安病院救急診療科の平野洋平 准教授らの研究グループ。
熱中症、1年で30万人の健康脅かす
ここ数年の熱中症予防の啓蒙活動の普及にも関わらず、熱中症の発生は依然として多く、国内では毎年約30万人の健康を脅かしている。また、熱による健康被害を受けやすい高齢者が増加していることで、命に関わる重症熱中症の発生も増加。このような背景から、医療従事者は熱中症に対して質の高い治療を行うことが求められている。
熱中症の治療で最も重要なのは、迅速かつ効果的な冷却。冷水への浸漬、氷嚢や濡れたガーゼによる冷却、扇風機の使用など、さまざまな冷却法があるが、重症患者には、血管内冷却装置や体外循環補助装置など、より侵襲的な方法が選択される。
しかし、臨床医にとって、個々の患者の状態に応じて適切な治療法を即座に決定することは容易ではない。このため、熱中症に対する臨床的な予後を予測するツールがあれば、これらの治療法を判断する際に役立つ。さらに、予後予測モデルを利用することで、熱中症に対するケアの質を診療後に振り返って評価することも可能となる。
機械学習を用いた予後予測ツールは、従来の予測手法よりも優れた結果を示すことが多く、医療現場で広く開発・応用されている。そこで研究グループは、機械学習を用いた熱中症の予後予測モデルの開発に取り組んだ。