順天堂大学医学部附属順天堂医院(院長:髙橋 和久)心臓血管外科では昨年8月、大阪大学が主導する「虚血性心疾患を原因とする重症心不全に対するiPS細胞シート治療の治験(iPSOC-1)」の多施設共同治験として虚血性心筋症の患者への移植手術を実施した。術後の経過も良好で、まもなく予定の入院期間が終了し退院予定。
順天堂医院心臓血管外科では従来の心臓手術に加え、内視鏡下心臓手術やカテーテル手術など身体への負担が小さな治療に注力しており、重症心不全に対しても再生医療の導入を積極的に進めている。
この治療法は、深刻な臓器移植ドナー不足であるわが国の重症心不全医療で、新たな治療オプションとなることが期待される。今回の心筋細胞シートの移植手術は、大阪大ではこれまで3例が実施されていますが、阪大以外の施設では初の症例となる。今回の手術成功は、治療法の有用性を多施設で検証する第一歩となり、大いに意義深いことといえる。
阪大で3例の移植完了、術後経過も順調
澤芳樹教授(順天堂大客員教授/阪大大学院医学系研究科特任教授)らの研究グループは、京都大の山中伸弥教授と共同研究を開始し、ヒトiPS細胞を用いて重症心筋症患者の治療法の研究開発を進めてきた。2012年には、世界に先駆けてヒトiPS細胞由来心筋細胞を用いて、ブタ虚血性心筋症モデル動物の心機能を改善できることを報告。また、2013年に国立研究開発法人日本医療研究開発機(AMED)再生医療実現拠点ネットワークプログラムに採択され、iPS細胞由来心筋細胞の液性因子の解析、レシピエント心筋と電気的・機能的に結合して同期拍動することなど、心機能改善に関するメカニズムの解析を進めてきた。
さらに、心筋細胞の分化誘導に用いる薬や製造方法を改良することで、ヒトに移植可能な安全性の高い心筋細胞を大量に作製、シート化することに成功し、ヒトでの安全性及び有効性を検証する医師主導治験を進めている。
この医師主導治験は、虚血性心筋症患者を対象とし、予定被験者数を10症例とする試験デザインとなっており、2020年11月に主施設である阪大で試験計画前半の3例の移植を完了。全例の経過が順調で、阪大以外の施設でも移植を行う、試験計画後半に入った。
遠隔地での役割も期待
今回の医師主導治験は、重症の虚血性心筋症の患者にヒト(同種)iPS細胞由来心筋細胞シートを心臓の表面に移植することにより、心臓の働きを改善したり、心臓の働きが悪くなるのを抑える効果があるか、どのような好ましくない事象がどの程度発現するのかを確認するための試験。患者ごとに移植の前後の心機能・臨床症状の変化や推移の観察を行う。
ヒト(同種)iPS細胞由来心筋細胞は、健康なボランティアから提供を受けて樹立した臨床用iPS細胞を大量に培養した後に心筋細胞へ分化誘導し、品質が基準を満たしたものを使用する。
この細胞をシート状にし、心臓の表面に移植し、細胞シートから分泌されるサイトカインという物質等による心臓の機能の改善効果を期待している。
順天堂大は、治験実施施設として、患者にヒト(同種)iPS細胞由来心筋細胞シートを移植し、知見後の心機能・臨床症状の変化や推移の観察を行う。順天堂大での実施は同治療法の開発を進める阪大だけでなく、遠隔地にある複数の医療機関でも実施できることを示す重要な役割を担っているといえる。