〇森の中のシカ死体は鳥類よりも哺乳類によって先に発見されることが多い
〇シカ死体は約1週間で消失し、海外と比較しても消失にかかる時間は大きく違わなかった
〇気温が高くなるほどシカ死体が発見されるのは早くなるとともに、無脊椎動物も活発になることで、シカ死体はより早く消失した
東京農工大学大学院連合農学研究科の稲垣亜希乃大学院生(博士課程2年)、同大学院グローバルイノベーション研究院の小池伸介教授と米国イリノイ大学(兼任:農工大大学院グローバルイノベーション研究院・特任准教授)のマキシミリアン L. アレン准教授らの国際共同研究チームは、森林内におけるニホンジカ死体を漁る死肉食動物(スカベンジャー)によるシカ死体の設置から死体を発見するまでの時間と死体の消失時間を定量化し、それらに影響を及ぼす要因を検証した。
その結果、森林内に置かれたシカ死体は、哺乳類が最初に発見することが多く、特にタヌキが最も早くシカ死体を見つけていた。また、死体の発見能力に優れたハゲワシが生息する地域では、ハゲワシの存在が他のスカベンジャー種に死体の在り処を知らせることで、死体の消失が早まることが知られているが、ハゲワシが生息しない日本の森林ではシカ死体は設置から約1週間で消失し、この消失時間はハゲワシが生息する生態系などと比較しても大きな違いはなかった。
さらに、気温が高くなるほど、哺乳類によるシカ死体の発見時間は早くなり、消失時間も短くなった。気温が高くなるほど腐敗が進行することで腐敗臭が広がり、嗅覚の鋭い哺乳類による死体の発見時間が早くなるとともに、無脊椎動物による死体分解が進行することで、消失時間が早くなったと考えられる。
これらの結果から、日本の森林生態系におけるシカ死体の分解は、嗅覚に優れた哺乳類が死体の発見と消費の主要な役割を発揮することで、有害な病原菌の発生源となる死体を生態系から迅速に取り除く役割に寄与していることが分かった。