サクラの栽培品種ソメイヨシノが普及するまで、日本人にとって最も身近なサクラは山桜(野生のサクラ類)だった。茨城県桜川市は〝西の吉野、東の桜川〟と並び称されるほど、古くから山桜の名所として知られており、日本一の山桜の里を目指した取り組みが進められている。山桜をシンボルとしたまちづくりを進めていくためには、山桜に対する地域の人々の意識を把握することが重要。そこで筑波大学生命環境系の佐伯いく代准教授による研究では、①地元集落の住民、②桜まつりの訪問者、③桜川市内の高校に通う生徒―を対象にアンケート調査を実施した。
その結果、どのグループでも「春の景観的価値」を最も重要だと認識していることが分かった。さらに、このような価値が感じられやすい場所は、高峯、磯部稲村神社、雨引観音など、山桜の景観が美しいことで有名な地域に集中していた。
また、GIS(地理情報システム)を用いた解析を行ったところ、クヌギやコナラといったナラ類が生育する森林や、地形の急峻な場所で、山桜の価値がより強く感じられる傾向がみられた。
こうした場所は、山桜の生育しやすい環境条件ともよく一致している。桜川市では、ナラ類と山桜が混在する里山が広がっており、森林の伐採と利用の歴史を経て、山桜の景観が維持されてきました。山桜をシンボルとしたまちづくりには、こうした里山を今後も適切に保全することが重要と考えられる。
研究グループでは、「研究結果は、自然と共生したまちづくりを進めるための指針になると期待されます」としている。