先端のレーザー技術を用いた光科学の研究では、極めて強く短いパルス光を物質に照射することにより、多くの新奇な現象が発見されている。これらの現象を理解するためには、光を照射した物質の内部で起こる、電子やイオンのミクロな運動を解明することが必要となる。筑波大学等の研究グループは、スーパーコンピュータ「富岳」を用い、1万を超える原子を含むナノ物質の光応答の第一原理計算に、世界で初めて成功した。
物質に光を照射すると、振動する光の電場により、物質中の電子とイオンが揺すられる。この電子やイオンの運動が光の伝搬に影響し、光の屈折や反射が起こる。このような光科学現象を解明するには、光の電磁場、電子、そしてイオンの運動を、物質科学の第一原理計算法に基づき同時に記述することができるオープンソースソフトウェアSALMONによる計算が有効となる。
今回の研究では、「富岳」の性能を生かした計算を行うため、理論物理学と計算機科学の研究者が密接に協力し、SALMONに対する高度なチューニングを行い、「富岳」の全システムのおよそ6分の1を用いた10万以上のプロセスからなる並列計算により、約6ナノメートルの厚さを持つ酸化ケイ素ガラスの薄膜と高強度なパルス光の非線形光応答を調べることを実現した。