東京海洋大学の鶴哲郎教授らは、東北沖の日本海溝に沈み込む前の海洋地殻を断ち切る大規模正断層の構造と物性を明らかにし、その断層に沿ったマントル流体の上昇を発見した。海構の海側に発達する正断層に沿ったマントル流体上昇と海水浸透の証拠が初めて得られ、マントルと海洋を結ぶ大規模な流体循環モデルを構築。マントル由来の水は断層面の強度低下をもたらし、巨大地震の引き金となり得ることから、今後マントル流体の変動の定期観測は地震・津波防災を推進する上で重要といえる。
海溝の海側には、アウターライズ(海溝外縁隆起帯)と呼ばれる海洋プレートの屈曲によって生じる地形的高まりが一般的に認められる。アウターライズではプレートの沈み込みに伴う屈曲により海洋プレート浅部に伸張応力場が生じ、海洋性地殻を断ち切る正断層群が発達して、正断層型の地震(アウターライズ地震)が海洋プレート内部で発生する。
巨大津波を引き起こす大規模なアウターライズ地震は、海溝型巨大地震の後に連動して発生することが知られている。日本海溝では、1896年明治三陸地震(海溝型巨大地震、M8.5)の37年後に1933年昭和三陸地震(大規模アウターライズ地震、M8.1)が発生し、津波災害による約3000名の死者が報告されている。
一方、2011年東北地方太平洋沖地震(M9.0)後には大規模アウターライズ地震が未だに起こっておらず、切迫度が増している状況にあると考えられる。しかしながら、大規模アウターライズ地震断層の実態に関する知見は極めて不足しているのが現状。
研究グループでは、日本海溝の海側に発達する大規模アウターライズ地震断層の実態(構造、物性、流体循環など)を解明するため、地球物理学データを地球化学データと組み合わせて、海溝海側の正断層を学際・総合的に調べた。