横浜市立大学木原生物学研究所の清水健太郎客員教授(スイス・チューリッヒ大学教授兼任)、東海大学医学部医学科基礎医学系分子生命科学の松前ひろみ助教らの研究グループは、北東アジアとその周辺地域にまたがる11の言語族の関係性について、言語(文法、音韻、語彙)、音楽、ゲノムの5要素から相関を検証した結果、文法と遺伝的な歴史の間で統計的に有意に相関していることを明らかにした。この研究をまとめた論文が、8月18日にアメリカ科学振興会が発行する学術誌『Science Advances』へ掲載された。
今回の研究のポイントは、
〇北東アジアとその周辺地域にまたがる11の言語族の言語(文法、音韻、語彙)、音楽、ゲノム比較・分析し、相関関係を検証。語族を超えた解析は初。
〇文法が遺伝的歴史の文化的な指標である可能性を示唆。文化的な関係と遺伝的な関係の違いが明確になり、人類の歴史の複雑さが浮き彫りに。
〇言語や文化のバリエーションと進化の過程を明らかにすることは、ヒト特有の行動と社会からの影響について分析する上で重要。
ヒト特有の行動と社会影響の分析で重要な研究成果
この研究成果は、文法が遺伝的歴史の文化的な指標である可能性を示唆していると同時に、文化的な関係と遺伝的な関係の違いを示し、人類の文化や歴史の複雑さを浮き彫りにしていると考えられる。
民族間の文化と遺伝的な歴史の関係は西ユーラシアでは研究が進んできたが、言語学的複雑性が高い日本を含めた北東アジアでは、方法論的な限界により関係性が分かっていなかった。
この研究により、1980年代に人類遺伝学者・カヴァッリ=スフォルツァが課題とした定量的に文化を測る手法が新たに確立した。さらに、北東アジアでも言語の文法の類似性が、遺伝的関係に遡る情報を維持している可能性が示された。このことは文化が入り組んでいる北東アジアの歴史の解明をさらに推し進める上で重要になると考えられる。
また、デジタル化された文化をデータ解析することにより、北東アジアのように複雑な文化を持った地域の研究に展開できるとともに、文化データを有効活用することに繋げられることを示している。
こうした言語や文化のバリエーションと進化の過程を明らかにしていくことは、ヒト特有の行動と社会からの影響について分析する上でも重要となっている。