横浜国立大学の森章教授が主導し、森林総合研究所、東京大学生産技術研究所、さらに国外10大学等研究機関が参画する国際研究グループは、生物多様性と気候変動の問題の相互依存性を定量化した論文を発表した。地球温暖化を防ぐことで生物多様性を保全できれば、生物多様性による炭素吸収が進み、気候の安定化をさらに促進できることを明らかにしている。この気候安定化と多様性保全の両者促進の利益の経済評価も実施し、今後の国際政策における両者間の良い関係性(安定化フィードバック)に注視することの重要性を強調した。
この研究成果は、国際科学雑誌「Nature Climate Change」(6月4日付)に掲載された。
森林は、光合成により大気中から二酸化炭素を吸収し、有機物として固定する「一次生産」の機能を有している。特に、多種多様な樹木から構成される自然度の高い森林は、この一次生産を介して、高い炭素吸収能力を持つ。しかし、今後地球温暖化が進行し、森林を構成する樹木の多様性が低下してしまうと、森林のもつ炭素吸収源としての機能が低下してしまう危険性もある。このように、生物多様性と気候変動の問題の相互依存性の評価が喫緊の課題となっている。
そこで森教授らの研究では、複数の気候変動に関するシナリオに基づいて、将来の樹木の多様性の変化を予測し、その結果として生じる森林の炭素吸収機能の変化を地球規模で評価した。
解析の結果、地球温暖化を防ぎ、樹木の多様性の損失を回避できた場合には、将来予測される森林の炭素吸収機能の損失の9~39%を回避できることが分かった。この結果は、地球温暖化を防ぎ樹木多様性の損失を回避すれば、森林の炭素吸収機能が維持されることで温暖化の抑制につながる、という気候安定化の好循環メカニズムを示している。
この研究ではさらに、生物多様性の保全による温暖化の抑制がもたらす経済的な効果について、「炭素の社会的費用用語解説」という指標を用いて評価した。その結果、生物多様性の保全にともなう温暖化の抑制が社会にもたらす経済効果は、国によって大きく異なることがわかった。
特に、温暖化がより大きな経済的損失をもたらす恐れのある国ほど、生物多様性保全を介した温暖化の抑制により、この経済的損失を回避できることが判明した。このことは、気候安定化と生物多様性保全の努力は、社会経済的なコベネフィット(一つの活動がさまざまな 利益につながっていくこと)が大きいといった、両者の望ましい相乗効果を示している。