東京大学史料編纂所では、所蔵する国宝「島津家文書」に含まれる正保の琉球国絵図と、倭寇図巻について、高精細デジタル画像をHPから公開するデジタルアーカイブを構築した。正保の琉球国絵図は、1644年の製作図の写しで、当時の琉球王国の版図になる奄美諸島から八重山諸島を描いている。琉球を描く大型絵図としては最古のもので、地形の描画や詳細な文字情報は以前から注目されてきた。ただ長辺が7㍍を超える大型絵図で取り扱いが難しく、展示する場所も限られるため、公開の方法が長年の課題となっていた。
今回、新型コロナ禍のなかで歴史史料のデジタル公開のニーズが一段と高まったことを受け、史料編纂所では2020年に、国立歴史民俗博物館の協力を得て同館展示室でデジタルスキャンを実施し、このデータをもとにデジタルアーカイブを構築した。
このアーカイブでは、研究者による利用だけでなく、学校教育や一般の利用でも利便性の高い機能を搭載している。地名の検索や現代地図との重ね合わせなどにより、琉球国絵図の研究進展が期待されるだけでなく、史料編纂所のHPから誰でも利用できるようにすることで、さまざまな可能性を想定している。
また、倭寇図巻は、16世紀の倭寇の姿を描いた画像史料として注目を集め、教科書などにも掲載される著名なもの。およそ17世紀前半までに製作されたものとされ、全長は5㍍を超える絵巻物になる。倭寇図巻には文字の記載はないが、2010年に赤外線撮影を行ったところ、内容を読み解くうえで大きな手がかりとなる文字が浮かび上がり、研究が一気に進展した。
今回構築したデジタルアーカイブでは、図巻の高精細画像を容易に閲覧できるだけでなく、赤外線写真との比較や、図巻のなかに描かれた人物の335人を検索できるなど、図巻そのものの面白さと最新の研究状況を追求できるものとなっている。
琉球国絵図・倭寇図巻とも、デジタルアーカイブは12月3日から公開している。今後は、アーカイブに搭載する関連絵図を増やすとともに、機能の拡充と汎用化を検討する予定。