2021年5月27日 【東大】〝心の専門家〟に気軽に相談 企業と共同開発、会社員の有用性確認

 

東京大学大学院教育学研究科の下山晴彦研究室は、パーソルワークスデザイン㈱との共同研究によって、バーチャル上で誰でもどこからでも〝心の専門家〟に気軽に相談できる双方向アバターを活用した心理相談システム『KATAruru(かたるる)』を開発した。KATAruruを会社員81名が使用し、アバターが相談抵抗感を軽減し、そこでの自己語りが主体的なセルフデザイン力を促すことを明らかにし、有効性を確認した。KATAruruを中核とするアバター心理相談サービスの実装は、コロナ禍で悪化しているメンタルヘルス改善だけでなく、働く人の主体性を尊重する健康経営イノベーションの促進に繋がることが期待される。

「サービス・ギャップ」解決を

プレゼンティズム(疾病就業)に代表されるメンタルヘルスの問題による労働生産性の低下は、大きな経済的損失につながっている。この問題の背景には、心身不調を抱えているのにもかかわらず、相談のための時間や交通費などのコストの心配に加えて相談することへの心理的抵抗があり、利用を回避する「サービス・ギャップ」と呼ばれる現象がある。

下山研究室では、この「サービス・ギャップ」と呼ばれる問題の解決に取り組んできた。これまでの研究によって話し手の表情や動きを反映しながら素顔を隠すことができる「アバター」は、伝達可能な〝非言語情報の豊富さ〟から、信頼関係の形成と心理相談の受けやすさの向上に有効で、相手の顔を直接見ないで話せるという〝匿名性の高さ〟から心理的負担の軽減に有効であることを明らかにしてきた。

そこで、下山研究室は、主要事業の一つとして企業の健康経営支援を実施するパーソルワークスデザイン社と共同して、バーチャル上で誰でもどこからでも〝心の専門家〟に気軽に相談できる双方向アバターを活用したオンライン心理相談サービスの開発を進めてきた。

7割以上が「気持ち受け止めてもらえた」

この研究で開発した心理相談システム『KATAruru(かたるる)』では、双方向アバターを用いてバーチャル上で心理相談を提供することにより、互いのプライバシーを守りながら、円滑なコミュニケーションを実現し、誰でもどこからでも気軽に心理相談を受けることが可能。この効果を検討するため、KATAruruを会社員に実施し、アクション・リサーチを実施した。

KATAruruは、顔認識センサーを搭載し、利用者の表情や頷きを反映するとともに、ジェスチャーボタンを使うことで心理相談で重要な非言語表現(頷きや沈黙で考える姿勢)を表現できる。

KATAruruを用いて、心理専門職(公認心理師・臨床心理士)による、社員に対する最大40分の心理相談を実施。うち81名からフィードバックを得るとともに、社員の相談過程の会話分析を行った。

事後アンケートの結果、70%以上が「気持ちを受け止めてもらえた」「本音で話せた」と回答。また、約64%が「悩みを語ることへの抵抗感が軽減された」と答え、アバターによる共感的な心理面接が、自己を語る体験を促進するものであることが示された。

さらに、匿名性により、相談への心理的抵抗が軽減し、初期段階で問題の根幹となる話題が語られ、主体的に問題に取り組む自己デザイン力が促されることが示唆された。

一方、「悩みが整理された」と回答した者は51%にとどまった。この背景には、単回では問題の整理まで到達することが難しかった事例や、具体的な助言を得るという利用動機の強い社員が一定数存在したことがある。問題の共感的理解を土台としながら、問題の整理につながる相談経路を設定する必要性が見出された。

これらの研究成果に基づき、〝気軽に相談〟と〝本格的相談〟という目的の異なる2種類の相談形式を設定し、利用しやすいサービス設計を実現した。〝気軽に相談〟は、1回30分以内で、悩みや困りごと、気持ちなどを自由に話すことを、〝本格的相談〟は、1回50分以内で、より専門的な観点から問題を整理することを目的としている。

これらの経路は、はじめに自分の体験を傾聴されながら安心して語ること、次に、自分の問題を客観的な視座から理解すること、さらに、必要に応じてさらなる専門的サービスを利用すること―という段階的な相談の発展を後押ししている。


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