BGMなどを聴きながらの作業は、効率が低下する恐れがある。音楽刺激は低音量でも聴覚性選択的注意を阻害-。複数の情報が存在する環境で、その人にとって重要だと認識された情報のみに選択的に注意を向ける認知機能が「選択的注意」。大勢の人が会話をしているパーティー会場などでの聞き取りにおける選択的注意は、『カクテルパーティー効果』としてよく知られている。東北大学の研究グループは、選択的注意を要する作業中に提示されるBGMの選択的注意妨害効果と特性について報告した。
この報告を行ったのは、東北大大学院医工学研究科/医学系研究科(兼)の川瀬哲明教授、医学系研究科耳鼻咽喉・頭頚部外科学分野の香取幸夫教授、医学系研究科てんかん学分野の中里信和教授、加齢医学研究所の川島隆太教授らのグループ。
この研究は、低音量のBGMでも選択的注意が妨害されうることを初めて明らかにした重要な報告といえる。研究成果は、いわゆる聴覚情報処理障害など選択的注意の病理が関係した聞き取り障害の病態解明や検査法開発にも寄与、貢献することが期待されます。この研究成果は12月21日にPLOS ONE 誌(電子版)に掲載された。
日常の生活では、周りの環境から絶えずさまざまな音が聞こえている。その際に、聞きたい音・聞くべき音に選択的に注意し、不必要な情報を選択的に無視できること(聴覚性選択的注意)が、音を正しく聞き取る上で大切になる。
今回、研究グループは、低音量の音楽でも、聴覚性選択的注意に影響することを明らかにした。研究では、被験者の左耳にテスト音(注意刺激:聞くべき音)を提示し、テスト音が提示されるたびにボタンを押すというタスクを行ってもらった。その際、右耳(対側耳)に音楽刺激(無視したい音)を同時に提示し、脳磁図を用いて音楽刺激の妨害効果を検討した。
対側耳にノイズ刺激を聞かせた場合、テスト音に対する脳の領域の脳磁図の反応はほとんど影響を受けないにもかかわらず、対側耳に音楽を聞かせた場合、信号の振幅低下や反応までの時間の遅れ(潜時延長)といった反応が著明に抑制されることが明らかになった。
また、対側耳の音楽の大きさを音楽が聞こえるか聞こえないか(閾値)のレベル付近まで下げても、N1mの抑制が観察された。
さらに、この脳磁図で観察された対側耳に聞かせた音楽の影響は、テスト音提示に対するボタン押し作業の〝反応時間〟でも確認されることを明らかにした。
聴覚障害の病態快泳や検査方法開発に期待
このN1mの抑制は、テスト音に対する選択的注意が対側耳に提示した音楽により分散されるため(音楽によりテスト音への注意が邪魔されるため)に生じたものと考えられる。音楽を聴きながらの車運転(ながら運転)、や勉強(ながら勉強)など注意を要する作業中では、たとえ大音量ではなくても作業に対する注意レベルの低下が生じ、実際に作業効率にも影響を与えうることを示すもの。
また、音楽とノイズで異なった効果がみられたのは、音楽とノイズで注意のひきつけやすさが異なるためであると推察される。
今回使用した音楽は、ジャズピアノの楽曲だが、使用する楽曲の特性によっても影響の大きさは変化する可能性があり、どのような音楽が影響を与えやすいのかなどについては、今後の検討が必要。
今回は、健聴者を対象とした検討となったが、聴力が正常にもかかわらず、ザワザワした環境下での聞き取り困難を呈する聴覚障害(いわゆる聴覚情報処理障害)の人では、妨害音に〝より妨害されやすい〟聴覚特性を有している可能性も示唆され、同障害の病態解明や検査法開発にも寄与、貢献することが期待される。