産後うつは産後数か月以内に発症するとされ、発症に関わる心理社会的リスク因子が報告されてきたが、産後1年までの経過や心理社会的リスク因子に関する研究は不十分とされてきた。こうした現状を受けて、東北大学の研究グループは、東北メディカル・メガバンク計画(※)で、三世代コホート調査に参加した妊婦を対象として、産後1年までの産後うつの経過とそれに関わる心理社会的リスク因子を分析した。その結果、産後1ヵ月と同様に産後1年でも同程度の産後うつ病が出現し、産後1年にうつ症状を呈した母親のうち、約半数は産後1か月時点ではうつ症状を呈していなかったことが判明した。この研究は、産後1年経過してもうつ症状が出現するリスクに注意し、産後直後だけでなく、より長期的な視点に立ってスクリーニングやケアの体制を構築する必要性を示唆している。
この研究分析は、東北大大学院医学系研究科(兼 東北大学病院)の菊地紗耶助教、富田博秋教授、東北メディカル・メガバンク機構の栗山進一教授、小原拓准教授らのグループが実施した。
産後うつは、産後の多くの母親に3日以内に悲しさや惨めさなどの感情が出現するもの。こうした状況は、2週間以内に治まるが、この状態はマタニティーブルーと呼ばれている。さらに、顕著な抑うつ症状が数週間から数か月間続き、日常生活に支障が出ることで、うつ病の診断基準を満たす状態になる場合、「産後うつ(病)」と呼ばれる。「産後うつ」は、出産後、約10~20%の女性に発症すると試算される。ここ数年、自殺との関連性が注目されており、対策が求められている。
※ 東北メディカル・メガバンク計画:東北メディカル・メガバンク計画は、東日本大震災からの復興事業として2011年度に始まり、被災地の健康復興と、個別化予防・医療の実現を目指している。東北メディカル・メガバンク機構(ToMMo)と岩手医科大いわて東北メディカル・メガバンク機構を実施機関として、東日本大震災被災地の医療の創造的復興や被災者の健康増進に役立てるために、合計15万人規模の地域住民コホート調査と三世代コホート調査を2013年より実施。収集した試料・情報をもとにバイオバンクを整備している。2015年度からは、AMEDが同計画の研究支援担当機関の役割を果たしている。