2022年2月9日 【慶應大】病気の原因が不明な乳児へのゲノム解析の有用性を確認

わが国の新生児医療は世界最高水準であることが知られているが、それでも新生児集中治療室に入院する重症の赤ちゃんの1割程度で、病気の原因がわからないことが課題となっている。そこで、新生児科医と遺伝学研究者からなる全国チーム(代表:慶應義塾大学医学部小児科学教室の武内俊樹専任講師)は、17の高度周産期医療センターからなるネットワークを構築。従来の検査法では原因を決めることができなかった85名の重症の赤ちゃんに対して、ゲノム解析という新しい方法で原因の究明を試みた結果、約半数(41名)が生まれつきの遺伝性疾患にかかっていることが判明した。

結果の判明したうちの約半数(20名)では、検査や治療方針の変更が行われ、このゲノム解析が新しい時代の医療技術として極めて有用であることを示した。

この研究成果は、2月3日(東部米国時間)に、小児科学分野を代表する国際誌である『The Journal of Pediatrics』のオンライン版に掲載された。

 

まず、赤ちゃんから1ccほど採血し、人体の成り立ちを決めているDNAを血液から取り出した。DNAは、30億個の塩基(四種あり、A、T、G、Cで表す)が連続した複雑な構造をしている。

そこで、次世代シーケンサーという最新の分析機器と超高速のコンピュータを組み合わせることで、DNAの持つ30億個の「文字(A、T、G、C)」すべてを短期間で解読できるようにした。検査の必要性については、検査を行う前に、赤ちゃんの親に十分に時間をかけて説明を行った。

研究の結果、85名のうち、約半数(41名)で病気の原因を特定することができた。その大半は、30億個あるDNAの文字のうち、わずか一つないし二つの文字が、別の文字に書き換わったことが原因だった。

ここ数年、高度医療のデジタル化が進んでいる。現在は、限られた医療施設でのみゲノム解析を行っているが、病気の原因が分からない赤ちゃんがいた場合には、デジタル技術を使って、遠隔地からでも研究に参加できるようにする予定。

米国、英国、オーストラリアなどでは、これまで研究室での研究にのみ用いられてきたゲノム解析の技術を、社会の中で最も弱い立場にある赤ちゃんの診断と治療に活かす取組が進んでいる。

今回の研究成果も、このような国際的な取り組みの一翼を担うもので、研究グループは、わが国でも、将来的には、生まれつき具合の悪い赤ちゃんが、日本中のどこにいてもゲノム解析の恩恵を受けられるように、通常の保険診療の中でも使えるようにしたいとしている。

また、ゲノム解析にかかる時間を短縮して、できるだけ早く診断結果を届けられるようにしていきたいと考えている。


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