慶應義塾大学医学部外科学教室(一般・消化器)の林田哲専任講師、北川雄光教授を中心とする多施設共同研究グループは、㈱フィックスターズと共同で、ディープラーニング技術を用いた人工知能(AI)による画像診断システムを開発した。このシステムは乳房超音波検査を対象としたもので、乳がん検診を受診した患者が、さらなる精密検査を受けるべきかどうかを高い精度で判定可能であることが明らかになった。
ディープラーニング技術の一つであるConvolutional Neural Network(CNN)と呼ばれる技術を利用して開発されたAIは、乳房超音波画像診断の国際的基準であるBI-RADS判定基準に基づいた診断を行い、対象となる超音波画像に精密検査が必要な病変を含むかどうかを判定することを目的に開発された。
このAIを用いて、教師データとは異なる3166枚の乳房超音波画像(3656病変を含む)を対象として診断を行ったところ、感度91.2%・特異度90.7%の精度で診断が可能であることが明らかになった。
この結果は、日本乳がん検診精度管理中央機構が認定する「乳がん検診超音波検査実施・判定医師」の合格基準が感度80%・特異度80%であることを考慮すると、これらを大幅に上回る精度での診断結果となった。
さらに外科専門医10名を含む、20名の医師による乳房超音波画像診断の結果と、AIによる診断結果を比較したところ、AIが統計学的に有意に優れた精度で診断した。
今後、乳がん検診や人間ドックなどにおける乳房超音波によるスクリーニング検査には、このAIシステムが医師の診断補助として利用され、見逃しや過剰診断を防ぐことで、精度の向上や施設間格差の解消といった医療技術等の格差の是正に貢献することが期待される。