2022年6月9日 【広島大】食道癌患者に対して治療前内視鏡画像から治療効果を予測 AIによる予後予測システム「DEENDOUT」を開発

■ポイント□

〇局所進行食道癌に対して根治的に化学放射線療法及び手術を行った患者の約4割は、化学放射線治療後、手術前に局所の病変の制御(完全寛解)が得られた

〇人工知能(AI)の技術を活用して治療前に撮影された内視鏡画像より放射線治療後の局所制御を予測するシステムを開発

〇前処理として考案した3種類の画像フィルタを使用し、予後予測結果にどのように影響を及ぼすかに関しても検討。予測精度は画像フィルタなしでは64%の予測精度だったが、考案した画像フィルタを使用することで81%まで予測精度を改善した

 

広島大学大学院医系科学研究科の河原大輔助教、村上祐司准教授、永田靖教授らの研究グループは、食道癌に対する術前放射線治療での局所制御に関して80%以上の精度で予測可能なモデルである「DEENDOUT」を開発した。

研究成果は今年4月に国際科学誌「The British Journal of Radiology」に掲載された。

局所進行食道癌に対して化学放射線療法及び手術、または化学放射線療法単独での治療戦略がある。化学放射線療法・手術の場合、手術前に化学放射線療法が行われる。化学放射線治療後、手術前に約4割の患者は局所の病変の制御(完全寛解)が得られている。化学放射線治療前の内視鏡検査画像から治療効果を予測できれば手術が不要となり、臓器温存が期待できる。

河原助教らの研究では、同病院で化学放射線治療を実施した98症例の内視鏡画像をAIの技術であるディープラーニング(深層学習)を用いて、治療後の局所制御予測モデルを構築した。

河原助教らは、治療前内視鏡画像に対して、16層のConvolution neural network(畳み込みニューラルネットワーク、CNN)モデルを構築した。フィルタなし、3種類の画像フィルタ(ラプラシアンフィルタ、ソーベルフィルタ、ウェーブレットフィルタ)を使用した4種類の入力画像での予後予測精度に関しても、比較検討を行った。

予測精度は画像フィルタなしでは64%の予測精度だったが、ラプラシアンフィルタで69%、ソーベルフィルタで71%、ウェーブレットフィルタを使用することで81%まで予測精度が改善した。つまり、同じCNNモデルを構築した上で入力画像を工夫することで、ディープラーニング学習精度が大幅に向上することを示した。

内視鏡画像ではこれまで、ディープラーニング技術を用いて病変の検出が研究開発で行われてきた。この研究により、予後予測も可能となれば、治療前のスクリーニング検査で病変検出及び治療効果の推定まで可能になる。研究グループでは、実際の臨床に活用するため、精度の向上を図り、個別化診断、治療での効率的な診断技術の開発を進める方針だ。


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