岡山大学准教授らは、医療従事者の感染対策意識を向上させるためのツールとして、バーチャルリアリティ(VR)を適用した教育コンテンツを開発した。本コンテンツでは、市販の VR システムを用い、通常目に見えないウィルスを仮想空間内の医療環境で視覚化。この仮想空間内で実際の医療現場で行われる診療・看護を行い、医療行為を通したウィルスの拡散・伝播状況を疑似体験することで、現実世界における手指衛生等の適切な感染対策の実施を促すことを目的としている。
このコンテンツを開発したのは、岡山大学術研究院医歯薬学域の萩谷英大准教授、ヘルスシステム統合科学学域の五福明夫教授、工学部創造工学センターの柴田光宣技術専門職員、廣田 聡技術職員の研究グループ。
これまでに、病室の環境清拭用コンテンツを開発してきたが、順次、薬・文書の病室内配送、点滴バッグ交換、点滴ライン確保、手術創部観察・ガーゼ交換、尿量測定、おむつ交換などのさまざまなシチュエーションを想定したコンテンツを開発し、医療従事者向けの教育プログラムの開発へと発展させる予定。
実感し難い医療行為での環境リスク
新型コロナウィルス感染症をはじめとしたさまざまな感染症の蔓延を防止するためには、集団免疫の確立(ワクチン接種)、物理的な感染経路の遮断(隔離診察)、個人防護具(マスク・ガウン・アイガードなど)の充実とともに、医療従事者一人ひとりの日常的な感染防止行動が重要。
感染防止行動としては手指衛生が最も重要で、WHO(世界保健機関)は2009年に〝5
手指衛生のための五つの場面〟を提唱し、医療従事者の手指衛生行動の改善を啓発してきた。しかし、微生物は目に見えないことから、どのような医療行為・環境で感染リスクが高いのか、実感し難いという課題があった。
萩谷准教授は、「新型コロナウィルス感染症のパンデミックは、医療従事者全般での基本的な感染対策の重要性を浮き彫りにした」と指摘。そのうえで、VR技術を用いて医療環境における微生物の伝播状況を疑似体験することで、現実世界での行動改善につながることへの期待感を表明した。