■ポイント□
〇文化財デジタルデータと3次元地理空間情報を統合表示するプラットフォームを開発
〇地下から地表までの状況を一体的に見ることができ、街づくりと文化財保護の両立を図る
〇ドローンLiDAR利用など調査方法の高度化により掘削以外での3次元情報を収集。調査方法の革新
〇地理空間の専門知識は不要、文化財データの集積を進めることで街づくり・インフラ整備に貢献
奈良文化財研究所企画調整部文化財情報研究室の高田祐一主任研究員と、産業技術総合研究所デジタルアーキテクチャ研究センターの中村良介総括研究主幹、神山 徹地理空間サービス研究チーム長は共同で、全国文化財情報デジタルツインプラットフォームを開発した。日本中の文化財の位置情報を網羅する奈文研の文化財総覧「WebGIS」と、産総研の3次元地理空間情報データベース(3DDB)との連携により、地下空間を含む国土の3次元構造と社会活動の歴史的情報を総合的に記述することが可能となる。
建築物のCADモデルや点群といった多様な3次元データを統一的に扱えるため、地下から地上の情報を一体的に把握することができ、開発事業における意図しない文化財の破壊回避に役立つ。GIS(地理情報システム)や3次元データに関する専門的な知識がなくても利用することができるので、地方公共団体や博物館が取得した文化財の3次元データ等を容易に登録できるようになる。また、文化財情報の活用を通じて、スーパーシティーやデジタル田園都市といったスマートシティープロジェクトにも貢献する。
3次元地理空間情報データベース3DDBと文化財情報の連携
これまで遺跡の状況や出土品の形状は主に平面図として記録・保存されてきたが、最近では3次元データが取得される事例が増えつつある。そこで今回の奈文研と産総研の共同研究では、デジタルツインプラットフォームの適用領域を空間方向だけでなく時間方向へも大幅に拡大し、地中に埋まっている遺跡や歴史的建造物といった文化財をターゲットとすることにした。
これまでの奈文研と産総研の成果を連携させることで、日本の国土全体を時間的・空間的に網羅する全国文化財情報デジタルツインプラットフォームが実現。このプラットフォーム上では、地下に存在する埋蔵文化財と建物・道路・植生といった現在の地表状況との位置関係が正しく可視化されており、地理空間データを読み解く専門知識が無くてもその位置関係を誰でも容易に調べることができる。
大規模データを対象にAI を駆使した高度な解析を行うことが可能
ここ数年、国土交通省や静岡県などのプロジェクトで、特定の都市域あるいは県全体をカバーする数十テラバイトを超える3次元データがオープンデータとして公開されている。全国文化財情報デジタルツインPFは、産総研が開発してきた大規模AIクラウド計算システム上に構築されているため、こうした大規模データを格納し、3次元点群データの樹木・人工物・地面の自動分類のような高度な解析を行うことができる。
特別史跡 岩橋千塚古墳群(和歌山県)で古墳新発見の可能性
和歌山市東部に位置する岩橋千塚古墳群は特別史跡に指定されている。4世紀末から7世紀にかけて総数約900基にも及ぶ古墳がつくられた全国有数の古墳群。和歌山県では、昭和46年(1971年)に現和歌山県立紀伊風土記の丘を設置し、特別史跡の保存と活用に取り組んでいる。
古墳群内の把握は、これまで航空レーザー測量や職員による現地踏査によって行われてきた。しかし、広範囲に古墳が多数存在することから、低墳丘などの古墳によりこれまでの測量や踏査では把握が難しい古墳の存在が想定されていた。
そこで、同プロジェクトのモデル事業として今年2月にドローンLiDAR計測を実施。取得した高精度地形データと現存の古墳分布図を重ね合わせた結果、古墳の可能性がある高まりを新たに確認した。今後、2023年冬に現地確認を行う予定。こうしたドローンLiDAR計測により、古墳群の調査方法の大幅な効率化が図られる見込み。