名古屋市立大学大学院医学研究科の岡田淳志准教授(腎・泌尿器科学分野)は、2008年に宇宙空間(微小重力環境)をモデル化した長期臥床(寝たきり状態)が尿路結石の形成を促進し、骨粗鬆症治療薬ビスホスホネート製剤が結石形成を予防できることを報告した。
JAXA・NASAと共同で行った同研究では、2009年以降に国際宇宙ステーションに約6ヵ月搭乗した宇宙飛行士に宇宙飛行の間、抵抗運動機器(ARED)を用いた運動とビスホスホネート製剤の服用を行い、宇宙飛行の間の尿中の結石リスク因子と骨吸収マーカーの変化を調べた。
その結果、ビスホスホネート製剤を服用しなかった10名の宇宙飛行士は、宇宙飛行の開始ともに骨吸収マーカー、カルシウム・シュウ酸・尿酸の尿中排泄が増加したのに対し、ビスホスホネート製剤を服用した7名の宇宙飛行士はそれらの排泄がいずれも低下することを見出した。
尿路結石は、動脈硬化を悪化させるようなメタボリックシンドローム(高血圧、糖尿病、高脂血症)や高尿酸血症だけでなく、閉経期やステロイド治療薬による骨粗鬆症でも再発率が増加することが分かっている。
しかし、再発予防方法として最も有効なのは〝多量の飲水〟で、これは2000年以上前のヒポクラテスの時代から変わっておらず、尿路結石は増え続けている。
特に宇宙飛行士は、宇宙飛行の開始時には水分摂取を行う時間がなく、無重力によって体内の水分が頭部に移動するなどの宇宙空間特有の変化によって、尿量が一気に減少する。本研究でもビスホスホネート製剤の服用の有無に関わらず、宇宙飛行の開始とともに1日尿量が50-75%にまで減少した。このことは宇宙飛行士に尿路結石ができやすくなるひとつの要因であると考えられる。
また宇宙空間での骨密度の減少は、閉経期の女性の10倍のスピードで進むといわれる。この研究では、宇宙飛行士全員がAREDを用いた抵抗運動を行ったが、ビスホスホネート製剤を服用しなかった10名の飛行士は、宇宙飛行前と比べて尿中の骨吸収マーカーは2倍に、カルシウム排泄は1.5倍に増加した。
同時に、尿路結石の原因となるシュウ酸・尿酸も1.1〜1.4倍に増加。これに対してビスホスホネート製剤を服用した宇宙飛行士は、骨吸収マーカーは0.5〜0.6倍まで低下し、カルシウム・シュウ酸・尿酸は0.6〜0.8倍にまで減った。
この成果から、宇宙飛行中の抵抗運動のみでは尿路結石の形成リスクを抑えることができないが、ビスホスホネート製剤の服用は宇宙飛行士の骨密度維持と尿路結石予防の両者に有効であることが世界で初めて証明された。
さらに、この成果は、寝たきりや閉経期の女性、膠原病や慢性関節リウマチなどでステロイド治療を行う患者が罹患する尿路結石にも応用可能であることを示している。