千葉大学予防医学センターの中山誠健特任准教授らによる研究グループは、計169名を対象とした脳波測定実験によって、化学物質濃度が極めて低い室内環境では休息時のリラックス状態を向上させる効果があることを実証した。
この結果により、化学物質の濃度を低減させることは、シックハウス症候群の予防だけでなく休息時のリラックス効果を高める効果があることが明らかになった。
この研究成果は国際学術誌International Journal of Environmental Research and Public Healthに掲載された。
明らかになった効果をみると、「室内のにおい」に関しては、化学物質濃度が極めて低いと85.9%が気にならないと評価。この割合は一般的な住環境に比べて1.7倍多かった。
また、「空気環境の満足度」は化学物質濃度が極めて低いと73.2%が満足していると答え、一般的な住環境と比較して1.4倍多かった。さらに、76.0%が「リラックスでき快適」と回答。リラックス状態を示す脳波α波も、一般的な住環境に比べて1.6倍多く発生した。
室内の化学物質濃度を低減させることは、シックハウス症候群の発症を予防する方法の一つであることが報告されている。その一方で、化学物質濃度を低減させたことによる空気環境の向上が、生活者の日常的な作業効率や休息に与える影響など、健康維持や増進効果について調査・報告する研究は、これまで行われてこなかった。
研究グループは、住環境の空気環境を改善することが、化学物質に敏感で悩みを持つ人々だけでなく、一般的な人々の健康にも重要であることを把握するために、住環境の向上と健康の関係を調査する必要があると認識。研究は、感性や印象だけでは評価しにくいリラックス状況を脳波測定によって定量的に解明することを目的に行われた。
研究グループは、内外装の見た目や環境が同等で化学物質濃度だけが異なる2棟の実験住宅棟で、さまざまな年齢や性別の計169名を対象とした90分間の滞在実験を行った。部屋には被験者のみで、快適に過ごせる実験環境下で実施。滞在中には、20分間の作業(計算や暗記課題)と10分間の休息(目を閉じて安静にする)時間を設けて、脳波を測定した。その他の60分間は、自由にくつろいでもらいながら、臭気の強さや好み、空気環境に対する印象や快適性などのアンケートに回答してもらった。
被験者には環境の違いを知らせずに行う「ブラインドテスト」で実施し、事前に年齢や性別、体温、血圧、アレルギー反応、ストレス状況なども測定・調査しました。休息時のリラックス状況は、個人差や多様な環境条件を考慮して解析した。
昨今の感染症の影響もあり、多様な働き方や生活スタイルの変化によって、住環境のあり方が変わってきている。研究グループでは、住環境の空気環境と健康の関係について、身体的な影響だけでなく精神的な影響(メンタルヘルス)の観点から、継続的な調査・分析を続ける予定だ。