2021年11月15日 【北陸先端大】失敗する他者の行動から意図を推定 人工知能技術を開発

北陸先端科学技術大学院大学の研究グループは、失敗する他者の行動の観察から、運動の目的や意図を推定するための基礎的な情報技術を提案し、妥当性を計算機シミュレーションで実証した。この技術は、障害・困難に直面する人の〝気持ちを察し〟、自ら助ける人工知能の創成に繋がることが期待される。この研究成果は、2021年10月12日(米国東部標準時間)に科学雑誌「Neural Computation」のオンライン版に掲載されました。

この研究を行ったのは、同大先端科学技術研究科ヒューマンライフデザイン領域の鳥居拓馬助教、日髙昇平准教授。

ここ数年、人工知能(AI)が私たちの社会生活を支える基盤技術となっていた。しかし、依然として人間の指令なしにAIが自律的に働く場面は限定的。「何かお助けしましょうか」と商店街でAI(AIを搭載したロボット)が人々に声をかける場合でも、人間の答えを待つばかりで、AI自らが人間を助ける行為を選んで実行することはほとんどない。自律的なAIを開発するのが困難である技術的な理由の一つは、人間には一見易しく感じられる〝他者の意図を読みとること〟が難しいから。

「失敗」は成功情報不足が要因

これまでのAI研究では、大量の成功した行動を学習して、同様の成功する行動をとる方法が提案されてきたが、少数の〝失敗した行動〟を観察するだけでは、そこから成功となる行動を推定することがない。理由は〝失敗した行動〟には成功の情報が乏しいため。人間を自律的に助けるAIの開発には、これまでのような成功例に基づく学習とは異なる発想が求められる。

また、他者を自律的に助けるには、まずその人が困っているかどうかを判断し、もし困っているなら何に困っているのかを推定する必要がある。もし他者の意図を読み違えたら、〝余計なお世話〟となりかねない。人間は、単純な状況では幼児でも行為の意図を察することができ、さらに失敗した他者を手助けできる。人間がいかにして失敗した他者の意図を推定できるのかは、人間の知を科学する認知科学でも未解明な重要問題。

「気の利く」AI創成に繋がる

この研究では、認知科学と人工知能の観点から、意図推論の認知メカニズムに関する仮説を提唱した。失敗する他者の運動から目的を推論する問題の原型として、観察した運動の軌道を手がかりにその軌道を生み出した観測できない制御システムの特性を推論する問題に取り組んだ。

この問題に対して、物体の運動を記述する力学系理論に基づく意図推定方法(アルゴリズム)を提案し、さらに、単純なモデルの計算機シミュレーションで有効性を実証した。

提案した方法では力学系の保存量(不変量)を運動の記述子(特徴量)として用い、異なる制御システムの運動の同一性を定量化している。成功例を学習するこれまでのAI技術では意図推定できない場合でも、提案手法では行動の意図を推定できることがわかった。

この研究で提案し実証した失敗行動の観察から意図を推定する基礎技術は、障害・困難に直面する他者を自律的に助ける〝気の利く〟人工知能の創成に繋がると期待される。将来的には、人間が同様のメカニズムで意図推論を行うかを心理学実験的に検証することで、他者の意図を推定する人の認知過程の解明にも繋がると考えられる。


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