■ポイント□
〇高山植物は低地性植物に比べて他家受粉に特化した種が多いことを発見
〇高山植物の多くはハエ・アブ類かマルハナバチに花粉運搬を託していることを実証
〇ハチ媒花植物の種子生産はマルハナバチの季節活性を受けて大きく変動することを解明
北海道大学大学院地球環境科学研究院の工藤 岳准教授は、日本最大の高山生態系を有する北海道大雪山系で30年におよぶ高山植物の生態調査の結果、虫媒花植物の多くが他家受粉に特化していることを突きとめた。
これまで寒冷な高山環境では昆虫の活性が低いため、高山植物は十分な受粉サービスを受けられず、自家受粉によって子孫を残す種が多いのではないかと考えられてきた。
ところが40種以上の高山植物を調べた結果、全体の85%の種は自殖能力を持たず、他殖のみを行っていることが明らかになった。これは陸域生態系全般で見られる傾向よりも顕著に他家受粉に偏ったものであり、高山植物の繁殖システムを根本的に見直す必要性を示唆するものといえる。
ほとんどの高山植物はハエ・アブ類かマルハナバチに花粉媒介を頼っているが、両媒花グループで結実率の季節的傾向は異なっている。ハエ媒花植物では季節的な傾向が見られなかったのに対し、ハチ媒花植物の結実率は季節進行と伴に顕著に増加していた。生育期前半に開花すると受粉がうまく行われず、結実が制限されていた一方で、働きバチが現れる生育期後半に開花すると、結実率は大きく高まった。
ハチ媒花植物の種子生産はハチの季節性に強く依存しており、今後の気候変動で高山植物の開花時期が早まると、ハチと植物の共生関係が崩壊する可能性がある。
この研究成果は5月9日公開のEcological Research誌にオンライン掲載された。