樹木はどこまで高く成長することができるのか?―。北海道大学大学院工学院修士課程の金浜瞳也氏と同大学院工学研究院の佐藤太裕教授の研究グループは、数値モデルで〝最大高さ〟導き出すことに成功した。金浜氏らは、樹木が重い体を有しているのにも関わらず、安定して、光合成のために高く大きく成長していることに着目。そこに樹木が成長過程で獲得してきた「重力に効率よく打ち勝つための仕組み」が秘められていると考え、重量物の配分バランスと実現可能な最大高さの関係を構造力学的な観点から紐解いた。
この研究では、樹木がもつ多様な重量分布を表現できるよう、密度が連続的に変化する数理モデルを構造力学の理論をベースに構築。重量物の配分バランスと実現可能な最大高さの関係を定式化した。その結果、樹木は生存戦略のために光合成を効率化させるべく、葉がバランス良く光を受けるように配置しつつ、高さを獲得するという目的を阻害することのないよう、極めて賢く枝葉を分布させていることを明らかにした。
この成果は、樹木が進化の過程で獲得してきた〝重力に効率よく打ち勝つための智恵〟の一端を明らかにしたもの。次世代で求められる自然と調和する構造デザインを開発していくために、自然との関わり方を誰よりも知っている植物に訊ねることは、極めて合理的なアプローチといえる。
この研究で解明された樹木の力学的合理性は、植物が持つ巧妙な重量配分の仕組みを模倣した自然に優しい経済的な構造デザインや新材料の創製へと繋がる。さらに、この研究で構築した数理モデルは、重量分布と最大高さに関する普遍的な力学法則を示すとともに、複雑な力学問題を解決するための強力なツールとなり得るなど、極めて幅広い分野での応用可能性が期待される。
この研究成果は2月7日公開の世界最大の学術誌「Scientific Reports誌」(発行:ネイチャー・リサーチ社)にオンライン掲載された。