京都大学の研究グループは、日本全国22河川を対象として、環境要因・社会要因・土地利用要因などのビッグデータと環境DNA分析による沿岸魚類群集データとを統合して解析することにより、森林を守ることが海の生物多様性を守ることにつながることを実証した。この研究は、フィールド科学教育研究センター山下洋名誉教授(現:特任教授)らが日本財団から研究助成を受けて実施した。
わが国の沿岸では、魚介類の漁獲量が長期的に減少し続け、沿岸では海藻が激減し(磯焼け)、中身のないウニの増加やクラゲが大発生するなど、生態系に大きな異変が起っている。京大フィールド科学教育センターでは、森から海までの生態系の健全なつながりが、沿岸域の生態系の保全に不可欠であり、そのメカニズムを科学的な視点から研究する「森里海連環学」を教育研究の柱として活動してきた。
しかし、森から海までの間には人間活動を含むきわめて多くの要因が複雑に作用しており、特定の河川での少数のケーススタディーを除くと、森の存在が沿岸生物にもたらす利益について、科学的な証拠はなかった。
そこで、研究グループでは、北大大学院水産科学研究院や国立環境研究所と共同で、生物多様性を調べる最新の研究手法である環境DNAメタバーコーディング法を用いて、全国22河川(一級河川)の河口域における絶滅危惧魚種(環境省レッドリスト2017・2019掲載種)の分布を調査。調査結果と流域での多様な環境要因と土地利用との関係を解析し、流域の森林面積率が河口域の絶滅危惧魚種の保全に最も重要な要因であることを明らかにした。
この成果は、国際的な学会である保全生物学会の学術誌「Conservation Biology」にオンライン掲載された。