京都大学都市環境工学専攻の藤森真一郎准教授らの国際共同研究グループは、農業・土地利用分野で実施されうる気候変動対策による国際農業市場及び食料安全保障への影響を分析し、国際学術誌「Nature Food」のオンライン版に掲載された。
現在、脱炭素化は社会のあらゆる部門で求められるようになった。将来の気候変動は極端な気象現象の頻度、強度、空間的広がりを増大させると予想され、食料生産や農業分野にとって大きな懸念事項となっているが、温室効果ガス削減もさまざまなリスクがあると考えられている。
既往研究では、農業・土地利用分野の脱炭素戦略により食料価格が高騰し、食料安全保障に及ぼす潜在的な悪影響が指摘されてきたが、主要な三つ(①メタン・亜酸化窒素削減費用の増加、②バイオエネルギー作物の生産拡大、③大規模植林)のうちどれが大きな影響力を持っているか明らかにされていなかった。
今回、六つの世界農業経済モデルを使用して、これらの三つの要因が、脱炭素シナリオの下で農業市場および食料安全保障の状況をどの程度変化させるかを示した。
研究結果は、温室効果ガス削減対策を取らず気候変動対策を考慮していないことを想定した場合(ベースラインという)と比較して三つの要因全てを取り入れた場合では、2050年では国際食料価格は27%増加し、飢餓リスクに直面する人口もベースラインでの約4億1000万人からさらに1億1000万人増える可能性が示された。
さらに、三つの要因のうち、大規模植林が大きな影響を与える可能性があることがわかった。内訳をみると、追加的な飢餓リスク人口1億1000万人の発生要因は、約50%が大規模植林、33%がメタン・亜酸化窒素削減、14%がバイオエネルギー作物の生産拡大によるものと推計された。この調査結果は、農業・土地利用部門で適切な脱炭素に向けた政策が必要であることを示唆しているという。