人類は日々、さまざまな目標の達成を目指して、その途中で思った通りにうまくいかずに〝期待外れ〟が生じても、それを乗り越えようと努力し続けることができる。京都大学の小川正晃大学院医学研究科SKプロジェクト特定准教授(元生理学研究所)、石野誠也同特定助教らの研究グループは、その能力を担う脳の仕組みとして、「期待外れが生じた直後にドーパミン放出を増やしてそれを乗り越える行動を支える」ドーパミン神経細胞を、ラットで発見した。
従来、脳内のドーパミン放出量は、思ったよりもうまくいくと増える一方、期待が外れると減ると考えられていた。しかしこの役割では、期待外れを乗り越える能力は説明できなかった。
この研究成果は、意欲機能に対するドーパミンの新たな役割を解明し、意欲を支える脳の仕組みの常識を変える革新的な知見といえる。
期待外れを乗り越える能力を支える神経メカニズムが実在するというこの研究成果は、将来的に、意欲の異常が深く関わるうつ病や依存症などの精神・神経疾患の新たな理解や治療法の開発につながることが期待される。
また、生涯を通した主体的な学びや自己啓発などの〝高み〟を目指す精神的営みに、重要な示唆を与えるものと期待される。
この研究成果は、3月11日に、国際学術誌「Science Advances」に掲載された。